ギルは浅く呼吸しながら、震える手でセレストの頬に手を伸ばし、涙を拭う。
その手はすぐに、力なく落とされた。
「古代…兵器は、とても、危険なものだ…。ラッセンブルグなど…一夜にして…滅ぼしてしまう。……時間が…ない。…この国と…王女殿下を…守りたいなら、一階の…最奥の…資料室の床を、探れ――」
絞り出される声音はだんだん遠くなり、セレストは思わずギルの両手を握りしめる。
「…ごめん…、僕…」
「――お前は正しい。セレスト…生き延びろ」
息を吐くように、最後の一言を残して、ギルは息を引き取った。
セレストの隣では、いつの間にかそばにいたティナが小さく祈っていた。
その顔には温かみも冷たさも無かったが、瞳だけが、悲哀の色を帯びていた。
*
「――セレスト、わたくしは資料室に行きます。貴方はここに居ますか?」
立ち上がったティナの表情は凛としたものに変わっており、声音ももう震えてはいない。
セレストはティナを見上げると、無言で立ち上がった。
そして、柔らかく微笑む。
「ティナ、手を繋いで行きましょう」
ふわりとした笑顔で差し出された手に、ティナは苦笑しながらも手を重ねた。
「まだ少し震えているのがばれてしまうではありませんか。セレストは乙女心のわからないかたね」
「すみません、デリカシーがなくて」
――微笑む二人の心は、ともすればすぐに壊れてしまいそうだ。
フィオレンティーナの母君や先王は既に他界しこの世にいない。
たった一人の肉親を喪ったティナと、その肉親を殺めた父親同然のギルを己の刃により喪ったセレスト。
二人の足を動かしているのは、一握りの使命感だけだった。
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