――兵士の言葉を聞いた刹那、セレストは目に見えぬ俊敏な動きで兵士二人の首に手刀を打ち込む。
声を上げる間も与えられず扉の前に倒れ込んだ二人をそっと寝かせると、ごめんね、と早口で呟いてセレストは扉の中に身体を滑り込ませた。
「…本当に…誰もいないな」
紺の敷物が、磨かれた石床に丁寧に敷かれた広いエントランスを見回す。
普段は侍従や宮殿専属の兵士の往来があるエントランスホールには、誰一人姿が見えず、物音ひとつしなかった。
「何か…おかしい。人払いにしては度が過ぎやしないか…?」
ドクン、ドクンと早鐘を打つ心のままに、セレストは二階奥の謁見の間へと走る。
そう遠くもないが、守備のためにと入り組んだ廊下が嫌に長く感じられた。
――と。
謁見の間付近から、キィン、という小さな音が聞こえて、セレストは眼差しを険しくする。
…あれは、剣と剣が弾き合った時の音――。
「――陛下!」
扉を開け放って叫んだ視線の先には、上段の椅子で血を流しぐったりとした国王と…
広い部屋の中央で剣を挟んで向かい合う、二人の姿があった。
一人は先ほど別れたフィオレンティーナ。
もう一人は――
「くっ…!!」
弾むように床を蹴り、腰の鞘から剣を抜きながらその人物の背を捉えたセレストは、迷うことなく斜めに斬りつける。
深く斬り込まれたその一閃は、致命的なものだった。
「…いい…斬りだ…、疾(はや)く…迷いが、無い」
――呻くように、ギル・ノスタルジアは床に倒れた。
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