ふと、煌めいた小さなものが目に入る。
廊下の柱の横に落ちていたそれは、淡い緑色をした丸く透明な石のイヤリング。
繊細に刻まれた紋様は、王家の証――…
間違いなく、先ほど会ったティナのものだった。
「…落としたのかな?」
ティナを見送ってからそんなに時間は経っていない。
追いかければ、ティナが宮殿の一棟に着くまでに間に合うだろう。
警備兵に伝えてティナの侍従に預けてもらえば済むのだが、なぜだか今はセレスト自身が手渡さなければいけないような気がして――。
不思議とざわめく胸を抑えるように、回廊を駆け抜けた。
「…なんだろう、みんないつも通りなのに…」
見回りの兵士たちが談笑する回廊と中央宮殿の繋ぎの廊下、宮廷料理人たちが忙しなく歩き回る中央宮殿右手の大きな厨房、そして王家の人間が住まう奥宮殿入り口…
なんら変わった様子は無かった。
――しかし。
「あ、お待ち下さいセレスト殿」
奥宮殿に入ろうとしたセレストは、若い二人の門兵に呼び止められる。
「…? …私ども近衛は、通行が許可されているはずですが?」
「いえ、もちろんです。ですが今は王より人払いせよとの命が…王近衛であれど通すなと」
「――賓客でも?」
いぶかしんだセレストに、兵士たちは顔を見合せると、互いに首を傾げた。
「我々も聞かされていないのです。ただ、解除命令が下るまでは誰も通さぬようにと…、ああ、今しがたフィオレンティーナ様はお通ししましたが…」
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