光の具合により銀色にも見える淡い金の髪を頭上からの風に遊ばせた目の前の少女は、まるで天使のようで。
身に付けた衣装は華美でなく、落ち着いた白色のドレス。
――彼女はフィオレンティーナ・フェリカ・ラッセンブルグ。
この国の第一王女にして、王位継承者である…セレストと同い年の姫君だった。
「…わたくしに会いに来た、とは仰って下さらないのね」
柔らかな唇から、言葉が紡がれる。
少しだけ憂いを帯びたその眼差しを見て見ぬふりをして、セレストは手近な花にそっと触れた。
「――この花たちに触れると、まるで静かに空を見上げているかのような安堵を味わえます。…他ならぬ、フィオレンティーナ様ご自身が育てた花ですから」
視線を落としたセレストのその両頬を両手で挟むようにして、フィオレンティーナは無理やりセレストと視線を合わせると、わざとらしく作った声音で論破する。
「こちらを向いて下さいセレスト。昨日もお話したでしょう? こうして二人だけの時は、わたくしのことはティナと呼ぶように、と。――いいですか、セレスト。これは王位継承者たるラッセンブルグ第一王女の命令です。逆らうことは反逆とみなされますよ?」
最後まで言い切ると、フィオレンティーナはそれまでの語調を崩して、セレストの目の前で祈るように両手を組んだ。
「…ね? お願い、セレスト」
仔犬のような懇願に、セレストは自らの額を押さえると、小さく溜め息を吐く。
「………仕方ありませんね、わかりました。…ただ、二人の時だけですよ? ……ティナ」
小さく小さく囁かれた愛称を耳にして、フィオレンティーナ…ティナはとても嬉しそうに微笑んだ。