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――さわさわと、風が草原を撫でる。
大人の膝上くらいある草の群れは、少年の姿を隠すのにうってつけだった。
いつもは結わえている背中までの金の髪をほどいて、少年は土の上にごろんと仰向けに寝そべっていた。
見上げる空はどこまでも蒼く、高い――。
「…いつ見てもいい眺め。ああ、鳥はいいなあ、空に近くて」
うっとりするように呟いた少年の顔面すれすれに、不意に磨き上げられた銀色の剣が突き立てられる。
「そんなにお望みなら今ここで空に送ってやろうか? セレスト」
「あ…わっ、すすすすみません隊長! 若気の至りで」
ぱらりと散った数本の髪を地面に残し、セレストと呼ばれた少年は慌てて立ち上がった。
左手脇に置いてあった剣を鞘ごと即座に腰に巻いた革のベルトに収める。
「――全く、お前は仮にも王直属の近衛兵だろう。皆の憧れの剣士の実態がこんな怠け者だと知れたらどうなる」
「やー、空が綺麗だったので、つい」
「その戯言なら聞き飽きた。いいからとっとと警備に戻れ、アホスト」
「…ギル隊長、アホはやめて下さい」
ギルと呼ばれた壮年の剣士はちらと背後のセレストを振り返ったが、無言で歩みを進めた。
彼の立ち居振舞いは堂々としており、真っ直ぐに伸びた背筋からは独特な威厳が感じられる。
――ギルは齢37、セレストは16だったが、互いに同じ隊…国民の憧れである近衛隊の中でも精鋭中の精鋭、王直属近衛隊に所属していた。
隊長であるギルを含め、隊員数は15名。各々剣技に優れるが、一癖も二癖もある者ばかりだった。
中でも最年少のセレストには度々任務を抜け出す厄介な癖があったが、ひとたび刃を振るえば鬼神の如く――…と噂されるほどの実力が備わっていたため、除隊命令が下ることなく、日々ギルを疲弊させながらちゃっかりのさばっていた。