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「…あとの燃料はどのくらい?」

「持って四、五時間かしら」

少しだけ視線を落としたマリエルに、セシアは満面の笑みを見せた。

「大丈夫、きっと足跡は残る。だって、あんな夢を見たんだもの」

「…夢?」

「そう。1000年後の未来で、私たちの手紙が発見されるの。100年前通信が途絶えた火星への大規模移民船、あれが成功してたって前提でね。移民の子孫たちは火星で人口を増やして、1000年後にはなんと!地球みたいな星になってるんだよ。その調査隊が手紙を見つけて、私たちの想いは火星中に配信されて、起きかけていた戦争を未然に防ぐの」

熱のこもった眼差しで語るセシアに、マリエルも思わず頷く。
その瞳には、徐々にセシアに似た光が宿っていった。

「言葉は…発した時点で消えてしまうから、それを聴いた人にしか残らないわ。たとえその場は収まっても、人は争ってしまう生き物。やがてまた争いは起こる。――でも、きっと願いは生き続けるのね。…百人の中の一人にさえ届けば、私たちの願いは叶うはずよ。なら私は、私たちの願いが何度でも、語られることを祈るわ。…人が争いを繰り返すなら、その都度抗い訴える人もまた生まれるのでしょう。――私は、私たちの手紙がそんな希望の最初の種になることを祈る」

ゆっくりと、マリエルは語ると、セシアの身体を思い切り抱き締める。

「一緒に居てくれてありがとう。最後まで、友達で居てくれてありがとう。貴女と生きられて幸せでした、セシア」

「マリエル…」

セシアもマリエルの背中に手を回すと、小刻みに震えるその身体をそっと抱き締めた。








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