「――なーんてさ、石碑まで立てちゃったのにその300年後にそれが破壊されてあわや世界戦争勃発の危機!なんてどうなの?」

栗色のくせのある髪を束ねて、うなじの辺りでくるりと巻き、バレッタでとめながら、年若そうな女性が極めて軽く問いかける。

二人部屋なのだろう、狭いスペースに二段ベッドと木製の細長い机が二つ並んでいた。

女性に問いかけられたアッシュブロンドの短髪の少女は、やんわりと答える。

「仕方ないです、人は争うものなのですから。300年持っただけでも凄いですよ。ね? リタ」

「んー、まあ闘争本能はあるんだろうけどさ。あの碑文、丸暗記してたメルは本当のとこどう思う?」

メルと呼ばれた少女は整備士の制服に着替えつつ、珍しく真剣な顔をした女性…リタを見やった。

「――3285年制定の全世界恒久平和条約は、3591年3月現在まだ破棄されていません。そして私は国防軍軍用機専属の整備士です。私は手当たり次第軍用機から武装配線を切断します、見つかって処せられるまで。…開戦までの少しの時間稼ぎにはなるでしょう」

さらさらと述べられた言葉に、リタは軽くため息をつくと、メルの両肩をがしっと握る。

「善戦を祈るよ、メル。メルならそうすると思ったから…」

リタは手元のパソコンを開き、いつ制作したのか、碑文全文を吹き込んだデータを開いて音声チェックをすると、次に碑文破壊前の映像を画面に映し出した。

「私はメルが現場でパニックを発生させてくれてる間に手薄になる管制システムにアクセスして全ての機器を止める。んで、それからすぐこれを繋いで監視モニタの映像を切り替える」

メルは瞳を見開くと、次の瞬間きゅっと表情を引き締めて、リタの手を握りしめる。

「――善戦しましょう」

二人は部屋のドアを開け、互いに背中合わせの方向に歩き出した――。



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