――太陽暦3260年、3月30日20時17分。
この瞬間世界中の機器から流れた映像と音声は、火星から戦火を消し去る発端となった。

度重なる争いに疲弊していたのはほかでもない民たちだった。
各国の権力者は領土争いの継続を叫んだが、それに従う者は次第に一人、また一人と去って行き、身一つとなった彼らは各々孤独な最期を迎えた。

民たちは国境を超えて固く結ばれ、3285年には民によって新たに選出された各国の代表者たちにより、ついに全世界恒久平和条約の調印式が執り行われた。

『――あなたと、あなたの住む世界の幸せを祈ります。もしできたら、最後まで争わずに生きた二人がいたことを、誰かに伝えてください。――人の本質は、愛なのだと』

式典では、セシア・ミュルズ及びマリエル・ハミルトンが遺した希望の種への感謝が述べられ、セシアの手紙の文面は一字一句違わず石碑に刻まれる運びとなった。
そして、セシアの手紙を世に知らしめた――…ユラヌスとジルトハイムの全面衝突を未然に防ぐ画策をしたとして反逆罪で即日射殺されたアゼル・ディレイとキリエ・ムジカ、二人の若き貢献者の彫像が、石碑の両脇に飾られた。

アゼルの像の台座には『希望を守りし者』、キリエの台座には『種を蒔きし者』と彫られており、その下段には両者共通の文『優しく勇敢なる者よ、永久に安らかに』と刻まれていた。

…風の噂によれば、アゼルは最期までキリエを案じ黙秘を続け、キリエもまた手紙を暗唱し、息絶えるまで文面を語り続けたという。
一斉ハッキング直前、キリエは手紙の映像のみモニターに残して隠し棚の耐熱型保管ケースに手紙本体を仕舞っていたため、セシアの手紙は抹消されず残ったそうだ。

――セシアの手紙は改めて長期保存用カプセルに入れられ、各国の資料館を点々とした後、いずこかへ保管された。




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