一分、一秒がやけに長く感じられる。
静まりかえった司令部の無線機に音声が流れたのは、アゼルが伝令を走らせてから十五分後のことだった。
『こちら航空艦。全オペレーティングシステム故障、発進できません!』
『同じく水陸戦艦、メインシステムエラー発生、全艦稼働不可能です!応答願――』
相次いで航空部隊、水陸両戦隊からの通報が入った後、それらはザザ、というノイズに掻き消される。
再びしん、と静まった刹那、無線から女性の声が響いた。
軍部に不似合いな柔らかな声音が読み上げているのは、アゼルがキリエに託したあの手紙の文章だった。
『拝啓、この手紙を読んでくれているあなたへ――。まずは、初めまして、でしょうか?…それとも、こんにちは、と言うべきでしょうか。――私はセシア・ミュルズ』
時折ノイズ混じりに流れてくるその声は、キリエのものだった。
間違いなく今この瞬間、彼女はこれを読んでいる。
「――お前…軍用機器のハッキングをして文書画像を流すだけだと…言った…のに…」
司令部のパソコンのウィンドウ、複数局を映したテレビ画面にはそれぞれにセシアの手紙が映し出されており、そこかしこの無線機はもちろん、パソコンやテレビからもキリエの声が流れていた。
「はは…やって、くれたな」
無線機から流れる声に耳を傾けながら、アゼルは司令部に近づいてくる複数のせわしない靴音に気付いて小さく微笑む。
「――アゼル・ディレイ、貴殿に即時出頭せよとの命令だ」
乱暴に扉を開けてなだれ込んで来た特務兵たちに囲まれ、四方から銃口を向けられたアゼルは、両手を上げて囲まれたままゆっくりと司令部を後にした。
――この後、彼が戻ることは無かった。