――時は太陽暦にして3260年、火星暦1000年と少し。
廃星となった地球からの入植民をルーツとする人類は、年々人口を増やしながら生きていた。
発達した科学は地球上での生活を彷彿とさせるまでになったが、利便性が向上するほどに争いの種も芽吹き、母星を同じくする同胞同士はやがて地球の教訓を忘れ、血で血を洗う戦を始めた。
滅びた地球から廃資源を根こそぎ集め、再利用するようになったのはいつからだろうか。
アゼルが属する国家…大陸に広大な領土を持つユラヌス国は火星随一の軍事力を誇り、地球資源のリサイクルも活発だった。
そんな中発見され届けられた1000年越しの手紙には、歴史を繰り返させない何かが宿っているような気がして――
――アゼルは、手紙を処理しなかった。
精巧に偽造した手紙とカプセルのレプリカを装置にかけ微細分解し、炉で熱処理をすると、灰をかき集めて袋に入れ、あたかも抹消したかのように見せかけた。
セシアとマリエルの「本当の」手紙とカプセルを、信頼に足る、ある「幼なじみ」の民間人に手渡して。
「――いいか、くれぐれも」
「ハイハイ、身に危険が迫ったら抹消してなーんにもなかったフリするんでしょ? んで、私が絶対そんなことしないってわかった上でのお願いでしょ? 無茶苦茶だよ、キミは本当に」
「…俺もお前も死なない」
「だと、いいけどねー」
アゼルより頭一つ分ほど背の低い幼なじみは、爪先立ちしてアゼルの顎に口付けると、くるりと身を翻(ひるがえ)して足早に去って行った。
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