――それでは、この辺りでペンを置きます。
読んでくれて、ありがとう。
西暦2186年12月25日
セシア・ミュルズ
*
「……幼なじみ、か」
淡い金髪の青年は、薄い手袋をした指先で掴んでいた古びた手紙を丁寧に折り畳むと、手元の保管ケースに仕舞う。
「よくもまあ、これだけの年数野晒しで保存できたものだな。奇跡としか言いようがない」
感嘆したように呟くと、白手袋を外してデスクを離れ、ちらと窓の外を眺めた。
緑の茂る地面、整えられた花壇、澄んだ蒼い空…。
彼女たちは、こんな何気ない光景を望んでいたのだろうか。
「アゼル様、今しがた書状が」
「ああ、機密書簡か。すぐに開封するから控えていてくれ」
軽くノックして執務室に入って来た伝令を外で待たせると、アゼルと呼ばれた青年はおもむろに取り出したナイフで封を切る。
『先のカプセル及び文書の抹消を命ずる。早急に遂行せよ』
流暢な文字で綴られたのは、先日とある惑星で発見された――今現在、執務室内にある古びた手紙の抹消命令だった。
アゼルは無造作に置いた保管ケースに目をやると、小首をかしげてから、さらさらと一筆したためる。
『微細分解及び熱処理により抹消完了』
伝令を呼んで厳重に封をした返信を渡すと、さてどうしたものか、と小声で呟いた。