――私達は、生き延びるためにコロニーの外に走ったわけではありません。

知っているかも知れませんが、コロニーとは地球上に点在する巨大なドーム状の退避場所…。
各所で拡大したオゾンホールから地上に降り注ぐ多量の放射線から身を守ってくれる安全な場所で、温度調節がなされ、高い天井には時間帯ごとに色合いの変わる空が映し出された擬似空間…最後の住み処(か)です。

コロニーから一歩外に出れば、待っているのは荒れ果てた不毛の大地。
昼は灼熱にさらされ、夜には凍てつく空気に襲われる、過酷な環境です。
そこにぽつんとある石造りの廃屋で永らえるのは、ちょっと無謀でしょう?

…私達は、ただ、静かな最期を迎えたかった。
それだけなのです。

ですから、私達はただ何も持たずに逃げてきただけなのですが、幸か不幸か――いえ、幸いなのでしょう、ここには幾らかの燃料と備蓄用食糧、長期保存飲料水のタンクが数個、そして紙とペンとこのカプセルがありました。
誰が何のために置いていったのか、それは判りません。
私達は頷き合い、これらの燃料と食糧を使ってほんの少し生き延びて、最期に臨むことにしました。

――今、私は不思議と安らかな気持ちでいます。
マリエルの口ずさむ優しい歌のせいかもしれませんが、とても穏やかなのです。

…あ、今火が消えてしまいました。
残された燃料は一つ。
食糧は、もうありません。

お別れの時が近づいています。
あなたは今どこで、何をしていますか?

――あなたと、あなたの住む世界の幸せを祈ります。
もしできたら、最後まで争わずに生きた二人がいたことを、誰かに伝えてください。
人の本質は、愛なのだと。

…争いで滅びた人間の言葉を信じてとは言いません。
ただもしあなたの世界に争いがあるならば、そこに全く救いがないわけではないと。
私達は無力でしたが、私達の生きざまが何らかの助力になれば幸いです。



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