「お母さん、また来たよ。元気?」

合わせた手をそっと解いた亜樹は、一見屈託のない、明るい笑顔で朗らかに問いかけて。
暑いよねえ、とおどけながら、手桶に残っていた少量の水を柄杓ですくい、墓石のてっぺんからさあっと注いだ。

「もう四ヶ月だね、なんだかまだ信じられないなあ…。実は生きてるとか、どう?」

明るく、ただ明るく少しの間一人で話し続けた亜樹は、バッグにしまってあった腕時計を見てはっと我に返り。

「ごめん、そろそろ行かなきゃ、またねっ」

あわただしく墓地を後にし、手桶と柄杓を置き場に返して最寄りのバス停を目指して走った。

墓地とバス停は目で見える程の至近距離。
だが、亜樹は一足遅く…
炎天下にむなしくバスの走り去る音を聞いたのだった。

バスに乗れれば亜樹の住む家まで一時間もかからず着いたのだけれど、運悪く次のバスは一時間半後。
帽子も日傘も持ってくるのを忘れた亜樹は、仕方なく少し距離のあるコンビニエンスストアまで歩くことにした。

いつもはバスの窓からしか見ていない、おおよその見当しかついていない道程。
けどほとんど一本道だから、迷うことはないだろう。

亜樹はその一本道を車窓から記憶した通りに歩いて、歩いて…
そして、コンビニが思っていたより遠かったのを思い知る。

照りつける太陽は容赦なく、亜樹は熱気に負けたのか、くらくらする頭で、息苦しい胸を押さえるように道端にしゃがみこんだ。

ああ、目の前が真っ暗、何も、見えない――…



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