あるがまま


「レイに髪を切ってもらうのは何回目かな」

鏡を見ながら、キノが言った。
よく晴れた日のことだった。強い風が吹きつけ、窓を激しく揺らしていた。

「うーん…何回目だろうねえ」

レイは、かばんにハサミを片付けているところだった。キノの顔を見ずに答えて、かばんの蓋を閉じると、よし、と満足気にひとりでうなずいた。
ふりかえってもキノがまだ鏡を見ていたので、レイは、

「気に入らなかった?」

不安そうに眉尻をさげて聞いた。

「ちゃんとかわいくできたと思ったんだけど…」
「“かわいい”?」
「うん。かわいいよ!」
「……ありがとう」

慣れない言葉を言われて、キノはむずがゆいような気分になった。照れをごまかそうとしたせいか、お礼の言葉が不機嫌そうに響いた。

「あ…。…そ、それにあの、かっ、かっこいいし……」

言葉の選択を間違えたと思ったのか、レイは表現を追加した。ほほが染まり照れつつも、懸命な目をキノに向ける。
“かわいい”は照れくさいし、“かっこいい”もどうかと思うし、けれど嬉しくて、キノは一層複雑な気持ちになった。

「…レイは、かわいいボクとかっこいいボク、どっちがいい?」

仕返ししてやろうという悪戯心が芽生え、キノはたずねた。
たくらみを顔に出さないように、キノはわざと、さも当然の疑問といったような顔をつくる。

「えっ!?」
「聞きたいなあ」

レイは当然ながら困惑して、目を左右に泳がせた。
キノが内心でほくそ笑んでいると、

「だ、だってベットでごろごろしてたりする時はかわいくて、ぎゅっとしたくなるし…。真剣に練習している時はかっこよくて、ドキドキして見とれちゃうし、えらべないよ……」
「………」
「それに艶っぽい時もあるかと思えば、ギラリとした瞳も持ってたりして…、でも全部がキノで、というか外見とかじゃなくて――……」

レイは、自分が相当な台詞を吐いてしまっていることには気づいていないらしかった。目をそらし、真っ赤になって言葉を紡ぐ。

「…それって、全部好きってことかい?」

キノはついに笑みをこらえきれなくなって、出た声がからかうような音になった。レイがハッとして、

「な、なんでそういうこと聞くの!」
「レイはよくばりなんだね」
「!」
「ボク、大変だなあ」
「な、な……っキノのばか! ばかばか!」

ついには怒り出した。
それが答えだった。




【あるがまま】-Just the Way You Are-
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(140214)



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