おすそわけの便乗


はい、という声とともに差し出されたフォーク。刺さっているのは、シロップのかかったパンケーキのかけら。
これは、いったいどういうことだろうか。

ボクは目の前の物体を見て、すこし頭を巡らせる。今は比較的安全性の高い国で、ひととおり買い物をすませたあとの、お茶を飲んで休憩する時間だったはずだ。甘いものを頼んで、それが運ばれてきて。
たしかボクが、おいしそうだねと言った気がするけれど、そんなのは毎度のこと。たいした意味はなかったはずだ。

「キノ?」

きょとん、と小首をかしげている様子はあどけなく、とても愛らしい姿であるけれど。彼女は平常なのだろうか?
ボクが同じことをやったら、きっと大慌てでゆでだこみたいに真っ赤になるだろうに。

「たべないの? おいしいよ?」

もしかして、熱でもあるのだろうか。ボクはまた考える。
そういえば、声に力がないというか…。舌足らずのような気がしなくもないような…。いや、レイは普段からこんなかんじだったような気もする。
こちらがドキリとするようなことを平気で言ったり、部屋の中なら無頓着だったり、案外だらしなかったり。よくそれでセシルにたしなめられているし。

「……おいしそうだね」
「うん、おいしいよー」

ボクの戸惑いをよそに、レイはにこにこと笑っていた。
その笑顔がすごく幸せそうで、楽しくて仕方ないといったようだったから。なんだかボクは、悩んでいる自分がばからしくなった。
流れに乗ろう。
人目のあるところじゃ、こんなレイは見れるものじゃないし。照れている姿もかわいいと思うけれど、こういうのも…堂々と好意を受け取ってくれてるみたいで、ちょっと嬉しい。

もし問題が起きたら、その時に考えよう。だから今はそのままで。





「はい、あーん。」




(おいしい?)
(おいしいよ。…もうひとくち食べたいな)
(いいよー)


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コロシアムキノさんが案外ノリノリだったので、乗る時は乗ってくれるんじゃないか?→背景が行方不明に



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