黒子のバスケ | ナノ

卒業する先輩へ

卒業しないで

なんて言えません。

バスケをやめないで

とも言いません。

でも

忘れないで

とは言いたいです。

俺はレギュラーにもなれなかった部員のひとりだったけれど、それでも伝えたい言葉はあるんです。


3月9日土曜日
今日は海常高校の卒業式だった。
わざわざ土曜日になんて、大半の生徒は文句もあっただろう。でも部活が盛んな海常は、だいたいの生徒が部活に所属している。その三年生の卒業式ともなれば、例えば雨が降ったって、その日が土曜日だからって、休む馬鹿はいない。

俺もそんな生徒の一人だった。


厳粛な空気の中始まった卒業式は、途中からすすり泣きや、嗚咽混じりの送辞や答辞に、つんと泣きそうになった。

でも先輩たちは泣かない

絶対に笑って卒業する

そんなふうに思えたから、ぐっとお腹に力を入れて堪えた。

でも退場の曲に、吹奏楽部が3月9日を合奏したのには流石に吹き出しそうになったけど。

そんなこんなで卒業式がおわり、HRも早く終わった俺は、クラスメートで同じ部活の早川と部室へと急いだ。

案の定先輩たちはまだ部室には到着していなかった。部室には先輩たち全員分の花束も届いていて、少々臭い気がしないでもないけど、隠しておけるスペースがなかったのだから仕方がない。

暫く雑談をしていると、体育館のほうが騒がしくなって、部室から覗くと元キャプテンだった笠松先輩を筆頭にレギュラーの先輩方、とまだ椅子が残ったままの体育館へと戻ってきていた。


「全員せい(れ)つー!」

相変わらずな滑舌の新キャプテン早川が、部員に整列をかけて俺たちも、それぞれ花束を渡す先輩たちの前に並んだ。

「卒業おめでとうございます!」

声をそろえて一斉に花束を渡せば、先輩たちも笑って「サンキュー」「ありがとな」と口々に感謝の言葉をくれた。けど、感謝してるのも、お礼を言わなきゃなんないのも俺たちのほうだ。

それに俺はまだ伝えてない…!
憧れのあの人に。

『先輩、少しお時間よろしいでしょうか?』

そう声をかければ、「なんだ?」と、首を傾げながらも、快く引き受けて近くに寄ってきてくれた。近くで見る先輩はかっこよくて、眩しくて、笑っていた。試合終わりに見た泣き顔じゃない。胸元には作り物の花と卒業おめでとうの文字が輝いている。

ずっと憧れだった。
隣にも並べなかったけど。


『俺にとってあなたは憧れのプレイヤーでした。
これからも、ずっと。それは変わりません。

でもいつか、必ず、先輩を超える選手になりたい!
だからレギュラーになれたら、一緒にバスケしてくれませんか?』


笠松先輩、俺は必ず貴方を超えて見せる!



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