黒子のバスケ | ナノ

コトバにしないとわからないコト

海のように真っ青なユニホーム姿。
スキール音をたてながらのドリブル。
額からの汗をぬぐうしぐさ。
ボールを貫くような鋭い眼差し。

あとどのくらいみていられるのだろう
あとどのくらい側にいられるのだろう

タイムリミットが近づくたびに、心臓がぎゅうぎゅうしめ付けられていく気がする。



夏のある日。
今日は奇跡的に部活が早く終わり、森山の提案により、主要レギュラーメンバーで、ファミレスに来ていた。

「黄瀬、決まったか?」

「おれはシーザーサラダとサンドイッチのセットにするっスよ、森山先輩」

「そんだけで足りんのかよ…」

「正直足りないんスけど、おれカロリー控えなきゃなんで!」

「っ!!……お、俺もそれにすっか」

「……痩せてモテるというわけでもないと思うぞ?」

『僕は冷やし中華のハーフにします』

「いや、白崎はもうちょい食べろよな」

黄瀬と白崎にツッコミを入れた笠松は、はぁーと息を吐き出す。その様子を森山をとめた小堀が苦笑して見ていた。

「そんなんだか(ら)ほそっこいんだぞ!!」

『でも残しちゃいますよ、普通のサイズだと』

「体力つけ(る)にも食べなきゃバテバテで試合できなくな(る)ぞ?!」

「早川落ち着けって。白崎ビビってるから」

中村は鼻息を荒くした早川を抑えて、白崎から遠ざける。そのあいだに黄瀬は隣の小さな同級生に話しかけた。

「早川先輩の言う通り、そのうち熱中症になっちゃうっスよ?ただでさえ身体細いのに」

『でも……』

「今まで倒れたりはしたことないのか?」

『無いです』

だから大丈夫ですよと、白崎が小さく笑った。
皆さん心配すぎですとも言った白崎に、笠松は自然と眉間に皺がよった。




「それじゃあまた明日!」

「おー」

店からは皆がばらばらに帰路へ着いた。黄瀬は直接スタジオへ、駅に向かうのは森山に小堀、早川で、残り三人は徒歩だった。

「じゃあな、中村!」

「お疲れ様でした、センパイ」

同じ方向の笠松と白崎は、中村と丁字路で別れを告げ、何を会話するでもなく歩いていた。

笠松の頭を閉めていたのはやはり昼のこと。白崎は幼なじみでよく家の行き来などもしていたから、普段から少食なのには慣れていた。

「七海」

『…っえ、あ、どうしたんですか?』

地面を見ながら歩いていた白崎は、咄嗟の呼び掛けに肩をびくりとさせて、勢いよく顔をあげた。

「…………敬語」

『あっ……ご、ごめんね。ゆき』

「それより…、お前なんか隠してんだろ?」

『そんなことは…』

「心配事あるんだろ」

『…………』

「食欲ないときは大抵そうだしな。………俺にも言えないことなのか?」

笠松の言葉にきゅっと唇をかんだ白崎は、『何て言うか、その…』と、口ごもり俯いた。

この様子ではいつまでたっても答えない。
それを瞬時に察した笠松は、ぐぃと白崎の手を握って足早に帰路を急いだ。

「………七海は昔から、俺が作ったものは残さず食ってたよな」

『えっ、何?』

「いや、別に。ちょっと俺の家寄ってけよ、七海」

『うん。別にそれは構わないんだけど、…………………あの、ゆきくん怒ってる?』

「はぁ?」

『っ……か、勘違いなら、ごめんね……ただ、手が痛かったから……その、』

その言葉にハッとして手を離すと、掴んでいた手首に真っ赤なあとが残っていた。足を止めていたわるようにその部分を撫でる。ひとつのことで頭が占められていたせいで、力加減が出来ていなかったのだ。

「わ、悪りぃ。怒ってねぇよ、ごめんな」

ふいに笠松の手に温もりが伝わった。撫でていた手のひらに白崎がそれを重ねたのだ。

『……ゆき悪くないよ。隠し事してた僕が悪いんだもの。悩み事話すよ。ゆきが自分自身を責めないように』

「七海……」

『僕の悩みはね、あるヒトへの誕生日プレゼントなんだ』

「誕、生日」

『うん、そう。僕ねいろいろ考えてて、大切なヒトだから、最善のものをあげたくて、ずっと悩んでたんだ。自分よりも大切な誕生日だから』

そんなに大事な奴が、できていたのか。

頬をほんのり赤く染めた白崎は恥ずかしそうに笑った。その表情をみて、何故か胸が苦しくなる。

血が繋がっていないとはいえ、兄弟のように育ってきたからだろうか。何故か七海にそんな存在が出来たことを、素直に喜べない自分がいるのだ。

詳しく聞きたい、聞きたくない。

笠松の胸のうちで二つの気持ちが衝突しあうなか、白崎が再び口を開いた。

『でも結局、プレゼント間に合わなかったんだ。だからもう心配しなくていいよ、ゆきくん。明日からは食欲も戻るだろうし』

「……それ、どういう意味だよ」

『今日誕生日なのに、まだプレゼント用意出来てないの。だから……』

「だったらまだ時間はっ」

『買えたとしても渡す勇気がわくにも時間かかるから』

だからいいの、と困ったように眉を寄せて笑った白崎を、直視出来なかった笠松は、ぎゅっと白崎を抱き寄せた。

『ゆ、ゆきくん?!どしたの? というかここ道路の真ん中なんだけど!!』

「七海」

『な、何?』

「そんな顔で笑うなよ」

『…っ』

「七海は消極的ですぐに抱えこんじまう心配ばかりかける奴だけど、ちゃんと俺はわかってるから。七海がそいつのこと考えてプレゼント探してたこと、ちゃんと覚えててやるから。だから来年こそは必ず渡せるといいな」

話の流れで片思いらしい相手を応援するようなこと言っちまった。けど後悔はしてねぇ。七海が辛そうに笑うのは見たくねえし。

高校生にしては小さすぎる背中を暫く撫でていると、身体が震え始めた。押し殺すように泣く白崎を、弟のように感じながら、白崎の大切な奴に文句を言ってやりたいと思った。

家についたら、七海の大好きなオムレツでもつくってやろう。




――――――――――――――――――――――

笠松先輩との家族愛なお話でした。

図式的には

笠松 → ( ← 白崎 )

七海君は強すぎる憧れが何だか恋愛っぽくなっちゃった本人にもよくわからない気持ちの状態なんです。相手がそばにいても伝えられない不器用な一面が書きたかったんですが、文章力のなさがすごく目立ちます(笑)


お粗末様でした!




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