黒子のバスケ | ナノ

◯ byご主人様

征ちゃんから真ちゃんと僕宛にメールが届いたのは、夜7時になるちょっと前だった。

“帰るのが遅くなる。だから先に夕飯を食べて構わない。寝てしまっていいから”

いつも遅くなる時はこうしてメールをくれる。だけど、今日は胸騒ぎがした。帰ってこない、なんてないと思う。だけど、もし、何かあったら。

「先に食べちゃった方がいいんじゃないスか?」

仕事が終わって帰ってきたりょーちゃんが、リビングから顔を出した。その後ろにはあっくんもいる。

『僕、お腹すいてないし、征ちゃん待つからいいよ』

「それにさー七海ちん。そんなとこにいたら風邪引いちゃうよー」

『皆は心配性だね。でもりょーちゃん明日朝早いでしょ?もう出来ちゃってるし、温める手間を省くためにも皆は先に食べちゃっていいよ』

そう言っても二人は拗ねるだけで、動こうとしてくれない。仕方ない、奥の手を使おう。

『あっくん、後でまいう棒好きなだけ買ってあげるから、りょーちゃんとおとなしくご飯食べてきて欲しいなぁ』

そう、あっくんはまいう棒にめっぽう弱い。
今月もまだ中旬にもなっていないのに、おこづかいが底をついたと征ちゃんから聞いていたのだ。あっくんはまいう棒をあげれば、ちゃんということを聞いてくれる。

「わかったぁ〜、明日買ってくれる?」

『うん、約束は守るから』

そういえばにたぁと笑って、りょーちゃんをずるずる引きずって、ダイニングに消えて行った。途中で「七海っち、助けてほしいっス!!」と、悲鳴が聞こえたけど、スルーしよう、スルー。

家の中で、一番頑固なりょーちゃんはいつもこういうとき引き下がってくれない。テツ君は心配の声をかけてくるだけで何も言わないし、サッちゃんは複雑そうに笑うけど従ってくれるからいい。真ちゃんは、あまり使いたくないけど命令だといえばしぶしぶでも従ってくれるし、大ちゃんはそもそも「別にいんじゃねー?」と、あまり関心を持ってくれないから、よく言えば従順なほうだ。

それにしても、征ちゃんおそいなぁ……  

手元の時計は夜の9時に近い。
先に夕飯を食べたみんなは入浴し終えてるかもしれない。そう考えながら、部屋から持ってきたテディベアを抱きしめた。これは征ちゃんが一人で寝込んでいてもさみしくないようにと、誕生日にくれたもの。一番のお気に入りだった。

「ボクも一緒に待っててもいいですか?」

そんなときに、ひょっこりと現れたのは寝間着に着替え終えたテツ君で、湯冷めしないように上着を羽織っていた。

『もう寝る時間じゃない?テツ君』

「そうですけど、ボクも心配なんです」

『じゃあ一緒に待とうか?』

「はい」

僕は包まっていた布団をテツ君が入れるように被りなおした。すると隣に座ったテツ君が「ふふ、」と珍しく声にだして笑った。

「温かいですね、七海様。子ども体温にみたいです」

『そんなことないよー、普通だもん』

「でもほら、手まで温かいですよ」

テディベアを抱えていた右手にテツ君の左手が伸びてきて、そっと触れた。とても優しい手つきだった。

『……テツ君のほうがあったかだよ』

「お風呂入りましたからね」

そんなふうにのほほんとした雑談をしばらくしていると、次第に瞼が重くなってきた。左手で目をこすったり、頬をつねったりを繰り返してもいっこうに覚める気配はない。限界がきて、テツ君の肩に頭を寄りかからせた。

『こうしててもいい?テツ君』

「はい、大丈夫ですよ」

『おもく、ない?』

「はい、問題ありませんよ」

その返事を聞いた途端、ふっと意識がとろんとして、瞼を閉じた。




「七海」

『んー?』

「俺のことは名前で呼ぶんだ」

あぁ、小さいときの征ちゃんだ。まだ、この時は小学生だったと思う。

『…兄ちゃんて呼んじゃいけないの?』

隣には小さな僕がいた。

「そうじゃない。ただほとんど時間が変わらないのに、兄だと言われたら、兄らしく振る舞おうとしてしまう自分が嫌なんだ」

そういって笑った征ちゃんは何となく泣きそうだった。

あの言葉の意味は未だに、よくわかってないけれど、征ちゃんを嫌な気持ちにさせたくなくて、あれから征ちゃんと呼んでいるんだ。



「七海」

すごく近くで名前を呼ばれた。これは声変わりした征ちゃんの声?

「こんなとこで寝てたら、風邪引くよ」

そんな言葉が続いて、身体を揺さぶられた。うっすら目をあければ、そこには制服姿の征ちゃんがしゃがんだ姿勢で僕を見ていた。

『征ちゃんおかえり! 』

やっと帰って来た!
よかった、ほんと何ともなくてよかった!

布団をはがし、テディベアも手離した。そのまま、ぎゅーっと抱き付けば、征ちゃんも片膝をつきながら、抱き止めてくれる。

征ちゃんもあったかだ


僕の隣で同じように寝ていたらしいテツ君が目を擦りながら、「おかえりなさい」と眠たそうな声で言うのを聞きながら、征ちゃんの頬に触れるだけのキスをした。


皆が楽しいのがいい、
皆が喜ぶのがみたい、
皆、揃って笑いたい。

僕らは家族。
皆が揃って家族だから。


何も知らないご主人様


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