黒子のバスケ | ナノ

放課後ロマンス


title: Con Brio

▽黒子…中学二年生



埃っぽい図書準備室。
司書の先生でも滅多に立ち入らない、現実から見放されたようなそんな場所で、ボクは彼に出会った。



「白崎君、そのまま寝てると背中痛めますよ」

ぽんぽん、と二・三度肩を小突くと、漸く気がついたのか『ん、その声は………くろ、こ?』と顔に被せていた単行本を手でずらした。茶色い眠たそうな瞳と視線が交わる。

「はい、おはようございます。といっても放課後ですけど」

『うん、おはよーです……あ、首いたい!うぅー…寝違えたみたい』

「全く。あれ程注意したのに止めない君が悪いんですよ」

『そーだけど……』

首を押さえながら、涙目になっている彼には溜め息を尽かされてばかりだ。何度注意をしても、変な体勢で単行本を読んでいる。ちなみに今日はソファーに座って首を天井に向けていた。

「今日は授業出たんですか?」

『まぁ、一応。珍しくやる気が出たので!』

「本当珍しいですね。明日は雹になるかもです」

『たまにぽろっ毒舌発言しますよね、黒子君は』

「気のせいですよ」

そういうと、彼ははぁー、と溜め息をつき、手に持っていた単行本へと視線をうつした。もう興味が失せたらしい。

白崎君は会った時から気まぐれな人だった。名前を聞いても、クラスや学年を聞いても、白崎君は答えてくれなかった。いつも曖昧に笑って『内緒なのです』と口に人差し指を当てるのだ。

ボクはこれ程、君に近づきたいと望んでいるのに

『そー言えば、黒子君』

「…!、何ですか?」

『今日体育でグランド走ってませんでしたか?』

「見てたんですか?」

『まぁそんなとこです』

僅かに煩わしそうに眉を寄せた白崎君に「体育苦手何ですか?」と尋ねれば、『得意とはいえないです』と返事が帰ってきた。

『けど黒子さんも苦手ですよね。バスケ部なのにウォーミングアップでくたびれてませんでした?』

「……よく見てましたね」

『暇だったんですよ、授業』

白崎君は単行本を閉じて、親指と人差し指で眉根をおさえた。
どうやら単行本は読み終わったらしい。

「……白崎君は、謎多いですよね。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?ボクの名前知ってた理由とか」

そう彼は何でも知っていた。
ボクの名前は勿論、血液型も、学年も、クラスも、誕生日も。
なのに彼が教えてくれたのは白崎という名字だけ。

ずっと考えていた。

昼休みにクラスを回ってみたり、校内を散策したりもした。

なのに彼は見つからない。

この部屋でしか会ったことがないのだ。


『んー…じゃあ一つだけ。何を知りたいですか?』

古びたソファーの上で体育座りした白崎君が口角をあげて意地悪そうに微笑んだ。

普通の人がやれば憎たらしいその顔も、白崎君がやると何だか可愛らしい。見ていると癒されるくらいに似合っていた。

「どうしても一つですか?」

『はい、一コ限定デスッ!自分は秘密主義なので』

「そうですか…」

残念ですね。
でも秘密主義のわりにはあっさりしてる。
いつもは大抵、曖昧に笑って誤魔化すのに。

でもこれはチャンスなのだ。
少しでも彼の情報が知りたい。

「それでは生年月日教えて下さい、白崎君」

そう考え抜いて出した答えはこれだった。
質問はひとつ、だ。
得られる情報は二つだけど。

白崎君もその意図に気づいたらしく、『へぇ―』と心底楽しそうに目を細めた。

彼はどう返してくるだろう。
表情からはわからない白崎君の内心を知りたくて、じっと様子を伺った。

賢い彼はきっと頭でどう反論を返すか考えている。この問いに対しての白崎君の返事はもらえない筈だ。

何故なら彼は言ったから。
教えるのはひとつと。

でも一か八か試す価値はある。



『いいですよ、じゃあそれで』


予想に反し、白崎君はあっさり承諾してくれた。

昨日までの白崎君とはまるで違う反応に、戸惑ったのはボクの方で、動揺を隠しきれなかった。

「えっ、白崎君良いんですか?生年月日ですよ?」

『だって知りたいんでしょう?』

「そうですけど…」

『なら答えますよ』

本当にどうしたというのだ、白崎君は。
あんなに隠したがっていたのに!

「今日の白崎君は変な感じがします。というより調子が狂います。なんで、急に教えるなんて『誕生日だからですよ』」

「え」

『だから、誕生日だからです。今日でしょ?誕生日。まさか忘れてたとか言わないですよね』

「言わないですけど……」

そうだ、確かに今日は1月31日
正真正銘、ボクの14歳の誕生日だ。

じゃあ、もしかして……

「ボクへのプレゼント、ですか?」

『いちいち聞かないでくださいよ、先輩。今日だから特別なんです』

「ッ!?」

せ、先輩?
てことはつまり……

「君は1年生、なんですか」

『驚いて貰えたみたいで俺も満足です』

情報が誕生日プレゼントって。
複雑だけど、彼らしい。

くすりと笑えば、『先輩が笑ってるのはじめて見ました』と彼も笑った。それはあの特徴的な笑みではなく、はじめてみる年相応のあどけない笑顔だった。


謎多し君の素顔は一体?


(それで誕生日はいつなんですか?)
(あー、まだ答えてなかったですね)
(はい、聞いてませんよ)
(今日ですよ)
(今日…!!、なんですか)
(はい、今日なんです)
(1年後の今日、なんですか)
(1年後の今日ですね)

――――――――――――――――――――


実は誕プレも別に用意していた白崎君
このあとこっそり取り出して
プレゼントします。

白崎君が『俺も満足です』といったのは、黒子君の表情を変えることが自分にとってのプレゼントだったから。

最後には吃驚した黒子君も見れたので、多分大満足してるはずです、白崎君。


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