黒子のバスケ | ナノ

◯ by大ちゃん

俺は、何にもしてやれてねぇ

こんな俺でも七海は、快く受け入れてくれた。だから何かしらの役に立ちたいってのに。

『何かしたいなんて、考えないで欲しいんだ。父さんは雇うって形で、皆と暮らすことを許可してくれたわけだけど、皆とは家族なんだ。だから上下関係とか、僕は望んでない』

七海は、最初、この離れで暮らしていくときに、そんなふうに言っていた。でも全員、俺みたいに考えていたらしい。

テツは何をやるにも丁寧で世話役にはうってつけな奴だった。さつきも料理は壊滅的でも、女だけあってか、細かいとこまで気配りができる。具合が悪いのによく気がつく回数も、さつきが多かった。黄瀬はファッションセンスがあって、出掛けるときなんかはこいつがセットしてくれる。緑間は料理を作り、紫原はお菓子作りにハマり、赤司は七海の代わりに、本家の仕事をし始めた。

そんな感じで数ヶ月のうちに、自然と役割は決まっていった。最初は嫌がっていた七海も、毎日言っていたせいで体調を崩しはじめ、最後は赤司の一言で、何も言わなくなった。

居心地が悪いとまでは言わない。だけど、何も出来てないことが、ストレスになっている気がした。

学校が無事に終わり、委員会があるというテツと赤司、モデルの仕事がある黄瀬たちと別れて帰る最中、隣に並んだ七海が俺の名前を呼んだ。

『大ちゃん、今度体育でバスケやるんだけど、その練習したいんだ。一緒にやらない?』

「身体は大丈夫なんかよ」

俺の言葉に、紫原が「そーだよ、七海ちん。今日の体育見学だったじゃん」と反応した。

『あれは、昨日休んだから先生に止められたんの…。でも学校行けるくらい元気だから、大丈夫なんだってば』

そりゃそーだ
七海の親父は、世間に名の知れた有名な教育者だった。あの人にかかれば、その子どもである七海に何かあれば、教育委員会を通して、校長を止めさせられるくらい簡単なことなのだ。だから七海の扱いは、腫れ物いやそれ以上に配慮されたものに徹底されている。

「主の大丈夫は、不安要素しかないのだよ」

『あー、真ちゃんまで!』

そんなやりとりをしてる七海を不憫に思って、

「んじゃ、1日一時間くらいだぞ。さつき、体調悪くなる前兆が出た瞬間、即止めろよ」

と、言った。念のため赤司にもメールを入れておく。何かするときは赤司の許可が必要なのだ。七海の願いなら、滅多なことがない限り、許可が出ないなんてことはないだろうけど。

目を輝かせ喜ぶ七海に、「赤司の許可が出てからだぜ」と、釘をさせば、『大丈夫、征くんなら』と、笑った。


案の定、赤司からの承諾が出て、帰ってから早速特訓をスタートさせた。初めに柔軟をきちんとこなして、身体をあっためる。意外にも七海はやわらかかった。

『へへへ、実は小学生の時にね体操習ってたのー。だから少し自慢なんだよー』

180度開脚をしながら、自慢げに笑った七海を、さつきが「すごい、すごい!」とはしゃぎながら、写メを撮っていた。

『大ちゃんできるー?』

「ああ ″ぁ? 出来るわけねーだろ!」

『でも身体柔らかくないと、あのバスケは出来ないでしょ?』

「え、」

はっとして、七海を見れば、きょとんとした顔で、『どしたのー?』なんて言われた。

「見たこと、あんのか」

『あるよ?』

「はぁ?!」

だってこの家に来てからは、夜中に抜け出してやりにいったりとか、学校でしかやったことしかなかった。だから七海が見たことあるなんて信じられない。

思考が混乱状態で、追い付かない。

『実は二回見てるんだ、バスケ』

体勢を体育座りに直した七海が、思い出すように目を細めた。その姿に、ただただ茫然と七海を見つめたままでいた。

『だから大ちゃんの大好きなバスケを、僕にも教えてよ』

七海は口許を緩め、無邪気な笑顔で俺を見た。茶色い瞳に、戸惑った自分の表情が写ってる。それでも七海は笑っていた。今もキラキラと、輝く目で俺を見てる。

『あ、それからね』

「?」

『夜中に出かけるのと、公園でやるのは、最近物騒だからやめてほしいな。その代わり、僕の家の敷地内にある体育館や、野外のバスケコートはセキュリティ万全だから何時でも使って構わないから』

そういって七海は柔らかく笑った。


やっぱ勝てねぇな、こいつには。
それが悔しくて、くしゃくしゃと乱暴に髪を撫でてやった。

七海との出会いは、施設でだった。
まだ入ったばかりで、周りになじめなかった俺に近づいてきた七海は、いいとこの坊ちゃんで、一人前に黒いスーツ姿だった。まだ小学生のくせになんて睨みつけていたら、七海は隅にしゃがんでいた俺の方へやってきて、『家族になろうよ』なんて抜かしてきやがった。同情心なんかで、引き取られるのがまっぴらだった俺は、「お前んちの使用人なんか、ぜってぇやらねぇ!」と叫んだけど、『使用人じゃなくて、友達っぽい家族だよ』としつこく攻めてきて、毎日毎日通ってまで誘ってくるから、最後は根負けして承諾した。

施設に入った理由は、父親からの暴力だった。
母親をも殴る父親は俺から見ても恐怖の対象でしかなくて、学校で殴られた時のあざが見つかり、父親がつかまっていなければ、俺たちはこの世にはいなかったかもしれない。

今だからわかる。
俺ははじめ嫌われることが怖くて、役割を探してたんだ。


虐待を受けた子

prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -