◎ byあっくん
ミドちんに写真を断られた、七海ちんは子猫みたいにしょぼんと耳が垂れたようだった。
ミドちん不器用だからなぁー
隣に座ってきた七海ちんのことを、ナデナデしながら、気にすることないよーと、ふわふわな髪をいじる。
「七海ちん、今日は牛乳にしといたー。あの甘いやつだよー」
途端にひぴんと耳をたてた。
時々飲めるその甘い牛乳は、七海ちんの本家のメイドさんが、届けてくれるものだ。俺もお気に入りなくらい甘い。
何でも七海ちんの叔父さんの会社が契約してる農場が近くにあるらしく、朝早くに買いにいってるらしい。
『それほんと?』
「嘘なわけないじゃん、飲んでみてよー」
『え、ぁ…それは駄目。ご飯は皆が揃ってからだもん』
「生真面目だねー、七海ちん」
飲み物くらいで誰も責めないよ。
そんなふうに薦めたって頑なに飲まないんだから。
「おはようございます。皆さん、七海様」
ちょうど話がきれたとこで、黒ちんが入ってきた。席は決まっていないのだけど、黒ちんは七海ちんの近くがあいていれば、必ずそこに座った。
「おいテツ!また七海の近くかよー」
俺とは反対側の七海ちんの隣に座った黒ちんを峰ちんが責めた。ちなみに峰ちんは七海ちんの真正面だ。
十分特等席なのになー
『大ちゃん怒んないで! 明日は隣、座るから』
「よっし、約束だかんな!」
『うんっ!』
そう約束を交わした七海ちん達をみて、黒ちんが律儀に七海ちんに謝ったりしていた。そしたら桃ちんが「謝ることないって、テツ君」と会話に入ってきて。
俺だけなんかのけ者みたい
なんて感じた。
峰ちんと黒ちんは、同じ施設出身だし、桃ちんと峰ちんは幼馴染みだし、桃ちんは黒ちんのこと好きみたいで、あの三人だけで、輪っかが出来てるみたい。
俺は黄瀬ちんみたいに社交的な質じゃない。それはめんどいし。でも仲間はずれはあの時を思い出すから何だか嫌だ。
心のなかで噂してたら、ホントに黄瀬ちん本人が登場した。
「おはよっス!!あ、今日は青峰っちに取られちゃったスね」
残念なんていう表情で、黄瀬ちんがテーブルに近寄ってきた。
「あれ?緑間っちこれ身に着けてなかったスか?」
俺の真正面の席に置かれていたのは、さっきミドちんが置いていった髪飾りだった。七海ちんがその疑問にすぐさま反応して、『あ、』と声をあげた。
『りょーちゃんさっき振りだね? それね音符の部分が剥がれちゃったみたい。今、接着剤でつけたとこなの』
「そーなんスか…」
じゃあここは緑間っちの席っスね、とその隣に座ったとこまで、目を擦りながら傍観者に徹していると。右側からくいくいと、袖を引っ張られた。右側は七海ちんだった。
『あっくん』
「どしたの、七海ちん」
『ちゃんと寂しかったら合図送ってね?』
「寂しそうだった?」
『うん、すんごく』
七海ちんは背中にも目があるんじゃないかな。なんて馬鹿な考えが浮かんで消えた。視野の広さは、多分赤ちんすら上回るのかもしれない。
七海ちんは、 “家族”の中で一番ちっこくて、身体も弱くてすぐ体調を崩すのに、一番デカイ俺より、何事にも一生懸命で、活動的だ。悪くいえば無茶ばっかりする。
だけど、他人のために無茶ばかりするひとは今まで会ったことなかった。まだ自分で働くことも出来ない子供なのに、大人よりも頼りたくなる。そう思わせるから、七海ちんは凄くて、皆が好きなのだ。
「じゃあ今度寂しかったら、抱きついてもいい?」
『ん、授業中以外ならね?あ、あと登下校中も駄目』
たまにおつむが弱いけど。
そんなとこも愛しくなる。こういう気持ちは、 七海ちんに出会ってから知った感情だった。
両親から愛して貰えなかった俺は、勿論親戚からも疎まれる存在で、離婚すると決まったときに貰い手がいなかった。もう少しで、施設送りになりそうだった。そんなときに、母さんの知り合いの子供だった七海ちんに出会って。
あの日に俺の全てが変わったのだ
離婚で行き場を失った子
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