黒子のバスケ | ナノ

◯ by真ちゃん

メインディッシュを作り終えて、皿に盛りつけていると、ようやく目を覚ました紫原と青峰がダイニングに姿を現した。後のセッチィングを彼らに任せ、俺も制服に着替えるため、自室へ向かった。

俺たちには使用人であるのにもかかわらず、一人ずつ部屋が与えられていた。それは主である七海が必要だと、増築までして作らせたものだった。どうしてそこまでしてくれるんだと以前訊ねたときに帰ってきた答えは『使用人じゃなくて、家族の一員だから』なんて思いもよらぬ言葉で呆気に取られたのを覚えている。

廊下を歩いていると、何か落ちることがして振り返った。
そこには赤い音符の髪飾り。
髪を触ってもついていないことに気づいて舌を打った。

朝から外れそうだったその飾りは音符がなくては意味がない。仕方なく元来た道を戻ってダイニングの引き出しから、瞬間接着剤を取り出した。

テーブルの上において、接着剤をつけていると、ドアから主と桃井が入ってきて、両端から手元を覗き込んできた。

『うわー、今日のアイテムはかわいいね?』

「みどりん壊れちゃったんなら、別の髪留め貸そうか?」

「赤い音符でなければ意味がないのだよ。黒いのであれば俺も持っている」

「ホントー?ねぇねぇナナちゃん。さっきまでみどりんこれつけて、料理してたんだよ」

桃井が楽しそうに反対側に話しかけ、

『えっ、それは見たかったなぁ…これくっついたらつけてくの?』

主が顔を上げて、きょとんと俺を見た。

「そうだが…問題でもあるのか?」

『んーん、ないよ。ただ写真撮りたいなって思ったの』

「写真、だと?」

撮られるのはあまり好きな方ではない。
目を伏せ、眉根を押さえると、甘えるような声が聞こえた。

『うん。ね、記念に駄目?』

主の唐突な “おねだり”は、昔から何度かあることだった。でもそれは俺にとって、 “指令”に
脳内変換されていた。

ここに来てから、あの環境よりは生きやすくなったし、不満があるわけでもない。それなのに、こうして “指令”に変換されてしまう。それは俺自身が、未だにあの頃の不安や恐怖から抜け出せていないからだ。

「それは……命令か?」

気付けば、口からそんな言葉が飛び出していた。

目を丸くした主は、一瞬しゅんと表情を暗くさせ、『何でもないよ、忘れて真ちゃん』と曖昧に笑った。

…またやってしまった。
傷付けたい、わけじゃない。
俺は彼らと同じくらい、主と等しく、対等な立場の相手として付き合いたいのだ。なのに、口からでるのは、あの人を落ち込ませてしまうような言葉ばかり。

自己防衛とはいえ、あの表情は二度と見たくないと、口にしたあとで毎回後悔しているというのに、俺は何度も繰り返す。

学習能力がないわけではないのに馬鹿らしい。

紫原と談笑を始めた主を一瞥したあと、心の中で謝罪を繰り返しながら、俺は部屋へと向かった。


俺がこうなった原因をつくったのは両親だった。父親が大学教授で、母親が教師という家庭で育てられた一人息子の俺は、常に高みを目指せ、一番以外は認めない、そういうプライドが高い人間に育てられた。

最初は俺も期待に答えようとした。

これは愛情 ゆえの鞭なんだと、決して彼らのプライドのために勉強させられているわけではない、と。自分でしたいからしているのだと。

でも途中から一番でいられなくなって、二番ばかりとるようになるときに言われた言葉は多分一生忘れない。

だからその環境から救い上げてくれた主には、感謝してもしきれない。俺は一生かかっても、きっと恩は返せないと感じている。

だからこそ一緒にいるのに、暮らしているのに。俺は何度あの人を傷付ければすむのだ。断るにしても、他に言葉があっただろう。

あぁ、何時になったら俺はまともな人間になれるんだろうか。


過度な期待に押し潰された子

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