◎ byサッちゃん
きーちゃんと別れた後、制服に着替えて、ナナちゃんの部屋に行った。ノックして入ると、制服に着替え終わっているナナちゃんと、テツ君がいた。
思わずナナちゃん達にぎゅーっと抱きついて、「おっはよー、二人とも!」と、ナナちゃん達も挨拶を返してくれた。
テツ君が苦しがっていたから、しぶしぶ解放すると、ベットに座ったままでいたナナちゃんがなでなでしてくれる。
『サッちゃんはほんとにテツくんが好きなんだね』
違うよ、ナナちゃん
テツ君のこともだいすきだけど、大ちゃんと同じくらいナナちゃんのことも、大好きなんだよ?
暫く撫でられたままでいると、その手が急に離れていった。
「テツ君ひどい、いい気持ちだったのに!」
目をあけ確認すれば、ナナちゃんの手をテツ君が掴んでいて、溜め息までつかれた。
「学校。遅刻してしまいますよ」
「あぁ!いけないっ、早く髪型整えようか」
「それじゃあボクは着替えてきます。七海様、また後程」
『うん、またね!』
本来この部屋に来たのは、ナナちゃんの髪を整えるため。その事をようやく思いだし、 ナナちゃんにドレッサーの椅子に座ってもらいブラシを手にとった。
ナナちゃんの髪はブラシに引っかかったことが一度もない。艶やかでさらさらで、女の子の私でも羨ましくなるくらいだ。男の子にしたら長めで、ギリギリ目に入らないくらいの髪をとかしながら、鏡を見ると、こちらを見たナナちゃんと目があった。
『ねぇ、サッちゃん』
「なぁに、ナナちゃん」
『髪とかしてあげようか?』
「えぇ〜!いいよぅ。私、自分で出来るから!」
それ以前にナナちゃんは私たちを助けてくれた人なのだ。こうしてお金をとることもなく、無償で生活を与えてくれた。そんな彼にやってもらうなんて、とんでもない。
『いいから。やりたいんだ、サッちゃん。やらせて?ねっ、いいでしょ?』
「ナナちゃん…」
『ね?お願いー』
鏡の中からナナちゃんが見つめてくる。椅子に座っているから、必然的に上目づかいになっていて、それはもう効果覿面。すぐさま了承してナナちゃんと場所を入れ替わった。
『サッちゃん今楽しい?』
暫くはお互いに無言で、静かな時間が流れた。鳥の声も窓なんかないみたいに鮮明に聞こえてきて、ナナちゃんが声には出さずに微笑んでいた。
そんなときの質問だったから当然驚いたし、その内容にも深い意味があるように感じられて、自然と眉根がよってしまった。同時にナナちゃんの声は色を含んでいなくて、ちょっぴり怖いとも感じてしまった。
「楽しいよ?どしたの急に?」
『ならいいんだ。ごめんね、変なこと聞いて。
さ、行こうか?きっとみんな待ってるね』
「え、あっナナちゃん待ってよ!」
ブラシをドレッサーの引き出しにしまったナナちゃんはそのままドアに向かい、出て行こうとしていた。私も慌てて追いかけて、ドアを支えてくれていたナナちゃんに追いつき、表情を窺ったけど、特に変わった様子はなく、穏やかに微笑んでいた。
さっきのは何だったんだろう。
すっきりしない、もわもわとして、漠然とした不安だけが残った。先に歩いて行ってしまったナナちゃんの背中を見つめてみたけど、当たり前だけど何も返ってくるはずはなくて。
何を考えてるんだろう
無意識に胸の前で両手を握りしめた。
もし何かあるなら言ってよ、ナナちゃん!
私たちが傍にいるのは、一緒に暮らしてるのは、
力になりたいからなのに…!
幼馴染の家庭のことを知ったのは、問題が発覚してからだった。一番近くにいたのに気づけなかったことが悔しくて悔しくて、家を飛び出した。そんなことをしても、何の解決にもならないし、力にもなれないことは知っていたけど、自分が嫌で仕方なくて、どこかに行ってしまいたかったのだ。
そんなときに助けてくれたのがナナちゃんだった。
だから頼ってほしい。
もし悩んでるならお願い。隠さないで?
家出少女
prev / next