溺愛シンドローム
きっかけは君の一言だった。
『黄瀬くんの笑顔は皆を幸せにしてくれるね。見てるだけで癒されて、どこか落ち着かせてくれる』
そんな後押しがあって、入ったこの業界だけど、俺がモデルになってからというもの、彼はどこかよそよそしく接してくるようになった。
「白崎っち!あ、黒子っちも奇遇っスねー」
こうしてクラスの違う白崎っち達と会うことはごくまれで、嬉しさのあまりに腕をぶんぶん振った。
『偶然だね、廊下で会うなんて』
「こんにちは、黄瀬くん。ボク達はこれから移動教室なので、キミは教室にゴーホームです」
「ヒドッ!!」
黒子っちのいった通り、彼らの手には、理科の教科書があって、実験室に向かっているのに気付いた。
「ところで何の実験するかきーてるんスか?」
『え?あ、うん。それがね硫「黄瀬くんには秘密です」』
「チョットー?!」
白崎っちがよそよそしいのにプラスして、二年生に上がってからは、白崎っちと同じクラスになった黒子っちがスキンシップの邪魔までしてくるようになった。
どうやら黒子っちも俺と同じ感情を抱いているらしい。
どこにいくにも二人は一緒らしくて、クラスの女子の一部が、よくその話題で盛り上がっていた。
白崎っちは俺が先に目をつけたんスよ。
黒子っちには絶対渡さない!
俺はちらちらとこちらを伺いながら遠ざかっていく白崎っちの背中を、見えなくなるまで見続けていた。
昼休みになり、チャイムと同時に飛び出して、俺は真っ先に、白崎っちの教室に走った。ちょうど彼らは後ろのドアから出てくるところで、隣に立つ黒子っちが舌打ちしたように聞こえたけど、そんなの気にならない。
白崎っちの両手を包み込むようにぎゅっと握って、「これからお昼っスよね?ご一緒していースか?」と、満面の笑みを浮かべた。
すると俺の予想通り、白崎っちは『うっ』と、言葉を詰まらせた。白崎っちは優しい。だからこそこういう好意を表情で前面に押し出せば、彼が拒否することを躊躇うのは容易に想像が可能だった。
さぁ黒子っちはどう来るんスかね?
ちらと黒子っちの方を振り返り、どうしたらいいといいたげな表情の白崎っちに、黒子っちがやっぱり似たような表情で、「どちらでも構いませんよ」と笑った。
「七海君の悲しむ顔は見たくありませんから」
ライバルである黒子っちはなかなかイケメンだった。勿論顔のことじゃない。俺みたいに変な嫉妬をして、付きまとうようなことをしない、そういう紳士的な態度が純粋に格好いいと思ったのだ。
敵わないっスわ
並ぶ姿も、黒子っちとの方がお似合いのような気がしてきて、考えれば考える程、俺が二人の邪魔をしているようにしか感じられなくなった。
中庭の四人掛けのベンチに白崎っちを挟んで座れると、
『黄瀬くん?』
「な、何スか? 白崎っち」
ポンポンと叩かれたことに吃驚して、ビクッと肩がはねあがった。それに連動して白崎っちも、不安そうな表情になって俺を見上げてくる。
『べ、別に用があるわけじゃなかったんだけど、その……、何だか今日、調子悪そうに見えた、から…』
白崎っちが俺のために!
心配そうにしてる白崎っちには悪いけど、俺は内心有頂天だ。何せ最近黒子っちばかりを映していた白崎っちの瞳の中には俺ただ一人なのだ!!これが舞い上がらずにいられるか、いやいられない。
どこまでも黒くて大きい綺麗な瞳。
吸い込まれるようなその表情。
久しぶりにこんな近くで見れたっス!
いつぶりの白崎っちだろう?
『黄瀬くん、ほんと大丈夫?熱でもあるの?』
額に手のぬくもりを感じながら目を閉じた。
あーもう!
ほんと可愛いっスね、白崎っち。
……やっぱ黒子っちにもわたしたくねぇっス。
title:モノクロ メルヘン様
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