「えっこれから誠凛に行くんスか?」
撮影終わりに純がマネージャーと話している内容が耳に入った涼太は近づいていって話しかけた。
『涼太君?……うん、そーなんだけど』
首を傾げながらそう答えた純に、彼のマネージャーが渋い顔をした。
「何度も言っているけれど一人では駄目だよ。純、もっと自覚を持ちなさい。何があるかわからないんだから。黄瀬君からも何かいってあげて」
マネージャーの言葉に、純を窺えば、ぐっと唇をきつく結んで視線を下げていた。
「…………俺が付き添ってあげるって言うのはどうスか?」
『「えっ?」』
「あ、純が良ければっスけど。要は一人なのがダメなんスよね?俺が責任をもって純を家に送り届けますから」
その言葉にマネージャーは勿論、純も、それからそれを口にした自分自身にも驚いていた。
あいまい
『涼太君本当にありがとう。どれだけ感謝してもしきれないや』
「や、いいんスよ。俺も誠凛行きたかったし!けど純があんな我が儘言うなんて珍しいっスね」
『…いつまでも従順、だなんてそれは有り得ないことです。僕はピーターパンじゃないんだから』
純はやっぱり、年相応の子供らしくない。
隣に座っているせいでいつもより視線の近い彼を見た。いつかと同じキャビネット帽はすっぽり目元まで隠している。それにプラスして今日は眼鏡までして、顔をふせている。しかし涼太が変装もなにもしていないので、密かにまわりからは注目を浴びていた。
「純は縛られるのが嫌?」
『そうですね、あんまり…。でもまだ義務教育も終えていないし、こういう世界で働いていることで、もっと細かいルールに従わないといけないことは勿論理解しています。……一樹さんの言ってることは最もです』
そう呟く純はどこか不満げで、反抗期っぽさが垣間見える。それがあまりにも彼に似合わないものだから思わず笑ってしまった。
「…純って、時々こどもっぽいっス!…あははっ」
『…………涼太君だってまだ大人じゃないです』
頬を膨らませた純と目があって、ますます笑い声が高くなる。それに堪えられなくなったのか、『……おりますよ、涼太君』と、すくっと立ち上がり、あいたドアからおりていく。
「あ、待つっスよー!」
慌てて涼太も立ち上がってそのあとを追いかけた。
電車をおり暫く歩くと見えてきた私立誠凛高等学校の文字。
『着いたーっ!』
それまで隣を歩いていた純がたたたっとかけより腕時計をみた。そして安堵したように、息を吐き出す。
「そーいやどうして誠凛?純って兄弟でもいたんスか?」
『いないですよ?誠凛高校に来たのは借りたものがあったからなんです』
一体誰からと口を開きかけたその時、見覚えのある髪色に気づいた。
「あれ、黒子っち?」
「黄瀬君、お久しぶりです」
『お二人はお知り合いだったんですか!』
純の言葉に、涼太は黒子と目をあわせた。黒子も少し目を大きくして驚いている。
「はい、中学生時代のチームメイトです。……君と黄瀬君はどういう…」
「ってか純は黒子っちに会いに来たんスか!」
『そうなんです。貴方は黒子さんとおっしゃるんですね。あっ、タオルありがとうございました』
ショルダーバッグから綺麗に折り畳まれたそれを見てますます混乱する。
「え、名前知らなかったんスか?!」
二人のやりとりに大きな声を出すと、会話を遮られたことに機嫌を悪くした黒子が僅かに顔を歪めて言った。
「……黄瀬君はもう少し静かに出来ないんですか?」
『涼太君、頭のなかごちゃごちゃなんですよ。仕方ないですけど』
少しばかり棘のある黒子とくすくす笑う純。
対照的な態度をとる二人を交互にみて、涼太は痛くなってきた頭を押さえた。
(どういう関係なんスか?!)