「純はもっと危機感持つべきっス!!」
黒子さんと僕の出会いについての一通りの説明をしたら、涼太君はそういって僕の両肩に手をおいた。その顔は今までにみたどんな顔よりも険しく、いびつに歪んでいる。
「黒子っちだったからよかったけど、子役としての純を知ってる人間だったら……」
そんなお説教を聞きながら、純の頭に浮かんだのは今日の撮影のことだった。
Warmth of a cradle
「俺らの間にある溝を埋めてきたいと思ってんだけどさ」
キズナさがしと口にした陸に具体的な説明を求めたら、真面目くさった表情で言った。
溝?と朔は首をかしげる。
「溝も何も、僕らの間には何もないんだから、溝だって出来てないんじゃない?」
他人同然なんだから。
朔の呟きに、陸は表情を歪めて言った。
「そうだけど……それは普通じゃない」
「普通って何を基準にしてなの?」
「っ……」
「....何がしたいの」
他人のような言われ方をしたことに傷ついた表情をした陸を一瞥して 、朔はその横をすり抜けた。
『……涼太くんはすごいですね 』
「へ?」
『知り合って間もない僕のこと叱ってくれる。叱るって相手が大切だからできることだって聞きました』
その言葉に高校生たちは僅かに眉を潜めた。
「…………そういう純くんは怒られたりしたことがないんですか?」
おそるおそると言ったのは、黒子さんでした。
『あんまり。仕事のなかでアドバイスはもらってきました。上手くいかなくて指摘されたり、そういうのはたくさんあったんです。でもそれはあって当たり前です。そのひとの作品のためだから。でも僕という個人に対して叱ったりされたりはなかったです。……だから今日のは吃驚しました。なんか....ほんとの、家族....みたいで』
純がぽつりぽつりと呟くのを聞いていた涼太は、話の途中からうずうずしはじめ、話し終えた途端、純の身体に抱きついた。
「純ーっ!!」
『わわ、涼太くん?!おっもいよ……倒れ、ちゃうから!』
「だってーー!」
『…だっ…てじゃ、ない、です!なにか、へん、な…勘違い、してない…ですか?』
「…勘違い?」
気が緩んだ涼太が力を抜いたおかげでようやく引き離すことに成功した純は咳き込みながら言った。
『例えばほんとの家族がいない、とかです』
「えっいるんスか!」
『いないとはいってないです』
「早とちりしすぎですよ、黄瀬君」
涼太君は話をしっかり聞いた方がいいと思う。
純は溜め息を一つこぼして、『僕にだっていますよ、ちゃんと』と小さく言った。
『父さんはいないですけど、母さんと祖父母はいますし、』
「じゃあ何でそんな寂しいこというんスか?」
『寂しい、こと…?』
「ほんとの家族みたい、ってことっスよ!家族がいるなら、そんな台詞出てこない。それが出てくるってことは少なからず今の家に不安があるって、そういうことじゃないスか」
的を得た答えに純はなにも言えなくなって俯いた。
「純、俺たちでよかったら話してくれないッスか?」
「家族にはなれませんが、力を貸す友達くらいにはなれますから」
真剣な高校生たちの言葉に胸が温かくなった。
自覚はなかった。
でもきっと寂しかったんだ。
じゃなきゃ説明がつかない。
「え、純?!どーして泣いてるんスか?!」
この瞳から溢れて止めることの出来ない涙のわけが。