家族ってなんだろう

昨日のことだ。弟がいると彼女に話したら、逢ってみたいと頼み込まれた。どんなこと好きなの?と趣味や特技、身長といろいろ聞かれたけれど、まともに答えられたのは年齢だけだった。

ほんとに家族なの?

首を傾げた彼女に、俺も「血が繋がってるんだから家族じゃない?」と首をひねって答えた。

ほんとに家族ってなんだ。


朝はいつものように、作り置きされた朝食を食べる。母が夜に仕事のある人だから、夜中の二時三時に帰って来るのだ。
俺は六時半から部活が始まるから、最低でも五時半には出なくちゃ電車に間に合わない。
弟は中学生で部活すら入っていないみたいだから、時間があわない。
そんなわけで今日も今日とて、俺はひとり先に家を出た。

「行ってきます」



まだまだ知らない君のこと


誠凜に行ったあの日から数日たち、ドラマの撮影日がやって来た。予定としては俺のシーンを撮ったあと、純のシーンがあるらしい。そのせいかまだ純の姿は見当たらなかった。

ドラマで使う心情のパートを録音しながら、ふと浮かんだのは純の涙だった。

純の家族ってどんなだろう。


祖父母と、母親、叔父。

見たことがあるのはマネージャーの叔父だけだったが、純のことに親身になって心配してくれている優しいひとだった。ちゃんとした家族だった。

それなのに……。



俺の知る限り小早川純という名前が有名になったのは、とある劇場版の長編作品の主役に抜擢からだったと思う。当時六歳だった純の演技力は誰もが絶賛するほど自然体で、あるとあらゆる作品賞を受賞したほどだった。作品の内容としては、動物との絆をテーマにしたもので、特に印象的なのは病気にかかってぐったりとする子犬を純が命を繋ぎ止めようとするかのようにぎゅっと胸に抱き締めて涙しているシーン。思えばあの頃から純は、自分の魅せ方を意識せずにこなしていた。ぐっと唇を噛みしめ俯き、前髪の間から涙が腕に抱く子犬へとそそがれる。堪えようとしながらもこらえきれず、静かに涙をこぼす幼い純が現在の彼の姿と重なった。


撮影の合間時間に純の合流はいつになるのか聞こうとしてピンと閃いた。

……ここにこんな便利な文明の利器があるじゃないスか!

スマホを片手で操作しながら、空白欄に《小早川純》といれ、検索をタップする。するとすぐさまページが切り替わり、最初の項目にドラマのタイトルが踊った。

Wikipedioには俺の知らない純の家族についてたくさん書かれてた。純の所属事務所は純の母親が自分の父親から継いだものだとか、祖母に関しても元有名女優だったとか。小早川家は資産家の一家として有名で、主に子供の教育に関連した事業を展開しているらしい。芸能事務所、スクール、劇団以外にも、個別塾や専門学校まで運営にあたっている、とのこと。

……なんでこんな本人に会ったこともないような他人の編集したプロフィールのが詳しいんだ。 俺は会って、話しまでして、一緒に作品に携わってる仲なのに、なんでこんなにも知らないんだ。段々自分の無知さに苛立ちさえ覚えて、乱暴にスマホの電源ボタンを押した。


「なぁなぁ、朔って兄貴いる?しかも超イケメンの!!」

「はぁ……?」

汐見の言葉に朔にしては珍しく不機嫌を露にした。

「こないだたまたま見かけたんだよ!すんげー朔似の美形。しかもカノジョも綺麗で、周りからも注目されててさ、どっか面影あんなてーって」

「ふーん…?」

ふと兄の顔が浮かんで、どのあたりが似てたんだ?とクエスチョンがいくつもついた。親戚にすら、一度も言われたことはない。朔は暫く考えたあと、「他人の空似じゃない?」と考えるのを放棄した。

あの兄にカノジョがいるとも思えなかった。



「朔にとってイケメンってどれくらいのレベルを指すんだろな。涼太さんですらイケメンじゃないって」

『…………外見じゃない。朔は陸の存在自体を見てないんだ』

純と蓮が話しているのが見えて、俺は近くまで駆けよる。するとちょうど話していたのは、ついさっきまで録っていたドラマの話だった。

「眼中には入っても、眼中にない全くの赤の他人なんスよね。関わり合いなんて一切ない、というか関わり合いたくない」

「黄瀬さん!」

俺が後ろから話しかければ、驚いたように声をあげたのは蓮だけだった。

『…………忍び足でもバレバレだったよ?』

「純の耳がよすぎただけっス!現に蓮君は驚いてくれたじゃないっスかッ!!」

『んー…、涼太君元気だなぁ』

純はふふっと笑って、俺から目をそらした。彼の横顔にふと疑問がうかぶ。

そーいえばお金持ちなのに、純って気取ったところがないなぁ……。


『でも涼太君の言う通りなんだよね、実際。無理に入れないようにしてるとかでもなくて、もともと・・』


固定概念的なイメージでは、ふんぞり返って俺、お金持ちなんだぜーみたいな、高慢ちきそうな生意気そうなそんな感じがある。

でも純にはそんなの一切感じらんなくて、さっきみた情報に疑念を抱くほどだ。

『涼太君?どうしたんですか?』

純の声かけにハッと我にかえって、誤魔化すように笑った。

「いやー純ってば改めてすげーんだなぁーって。フツーさ、そこまで役のこと頭のすみまでみっちり考えてたら、演技が固くなったり、ぎこちなくなったり、するもんじゃない?だからっスよー」

「そっすよね!前から思ってたんすけど、純が演じた役ってほんとにいそうっていうか、台詞覚えて演技してるって感じしないんすよね。役に合った表情で、役に合った口調で全く違和感がなくて!なんつーか純がキャラそのものなんだって感じで!」

『…………蓮、褒めすぎ』

力を抜くように息を吐き出した純は前髪で表情を隠しながら、ささやくように何か呟いた。

「…純?」

聞き取れなかった声に首を傾げると、何でもないよと笑った。

「小早川君、朝生君、次のシーン録るから打ち合わせするよー」

『あ、はーい』

「今いきまーす!」

二人はそういうと俺に軽く挨拶して、監督のもとへ走っていった。




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