昨日はどうしてあんな生意気な事言っちゃったんだろう。
仮にも涼太君は人生の先輩なのに。
純は朝食である食パンを一口がじり、息を吐き出した。
「…純、今までの自分を否定するような考え方はしない方がいいっス。今までの自分がいたから純はここにいるんスから、その事を忘れちゃダメっスよ?」
キラキラ輝いていた涼太の笑顔を思い出して、純はぎこちなく笑った。
『涼太君はやっぱり、格好いいな』
一人呟いた声は、暗い空間に小さく響いてきえた。
The puzzled heart
「よろしくお願いいたします!」
「やあ黄瀬君、今日は暑くなりそうだから早めに撮ってしまう予定なんだ。頑張ってくれよー」
「はい!」
遠くで声がした。
純は台本から顔をあげ周囲を見回し、姿を認め、ふっと力を抜いた。
『涼太君、おはよーです』
「あ、純早いっスね!おはよっス」
デザインTシャツにジーパン
今日の撮影は、家の中をメインに撮るみたいで、純も白いシャツにカーディガンを合わせたラフなスタイルだった。
『そういう服装、新鮮ですね』
「そっスね。雑誌の撮影じゃ、この上にジャケとか合わせるから」
『でも流石涼太君、絵になります。羨ましいなぁ』
「そんなことないっスよ?あ、そだ!今度写真集出すんスけど、純も出てみない?」
突然の誘いに『え、えっ?!!』と、戸惑い気に涼太を見た。
『や、でもでも写真集なんですよね?僕、モデルなんてしたことないですし!』
「じゃ初挑戦てことでどスか?今日の撮影終わるまでじっくり考えてみてよ、きっと楽しいっスよ?」
『あ、待って!涼太君』
監督に呼ばれ、走っていった後ろ姿に、手を伸ばすもあと一歩で届かない。純は困ったような戸惑ったようそんな表情を浮かべた。
『(涼太君は簡単そうに言ったけど、涼太君個人の写真集に僕が載るなんて、そんなおこがましいこと出来ないよ)』
年上で、憧れてる存在
純の中で、彼はそういう存在なのだ。
だからこそ、昨日の態度を悔やんでいるし、彼が望んだように『涼太君』と呼ぶ。本当は敬称をつけたいのを必死に押さえ込んでいる。
『(かといって断るのは、それも失礼………だよね?)』
頭に片手をあて、目を閉じた。
最善の答え
それは何だろう
「純君、スタンバイお願いいたします!」
『あ、はいっ』
出番が来て、純は立ち上がった。
視線の先には目映い光に溢れるセットの中に彼が見える。嬉しそうにぶんぶん手を振る様子は、とても年上には見えない。純は思わずくすっと笑って近づいた。
「朔……。学校どう?」
陸の言葉に、手の動きを止め朔は後ろを振り返った。表情に変化はないが、内心朔の部屋に今まで来ることのなかった人物の登場に少なからず驚いていたのだ。
「どうって。……特に」
それ以前に兄とは話すことも滅多にしてこなかった。どう会話したらいいか、どんな表情をすればいいのかすらわからなくて、朔は目線を逸らしながら素っ気なく答える。
「そっか、何もないならいいんすよ。でも力貸して欲しいなら、素直に頼ってほしい。これからはちゃんと家族になろう」
家族……?
疑問符をいくつも浮かべた朔に、陸は今まで見せたことのない優しく兄らしい表情をして、言い放った。
『今日から僕らのキズナさがしを始めるんだ』