「宜しくお願いしまーす!」

スタッフさんにお辞儀をしながら、現場入りすると既に来ていた純と見たことがあるような少年がぱたぱた走って近づいて来た。

『こんにちは、涼太君』

「おはよっス、純。その子も共演者スよね?初めまして」

手を差しのべ、握手を求めれば、彼も白い歯を見せ笑った。

「はい!こんちは。俺、ジェニーズJの朝生蓮と言います」


年下の共演者


「朔、おはよ!今日の調子はどう?」

「特に」

「そっか、ならよかった。今日も一日に頑張ろうな」

そう言って、穏やかに微笑む。
どうしてそんな顔で笑うのか、未だに僕は分からない。

クラスでは浮いている朔に唯一、屈託のない笑顔で接してくる彼は、小学校から付き合いのある汐見だ。

クラスは違うというのに、わざわざ休み時間のたびに訪ねてきてはちょっかいをかけてくる。そんな彼は明るくて男女問わず人気で、確か学級委員も務めていたはず。

話しかけに来なくてもいいのに

そうは思うけど口に出すことは出来なくて、僕はいつものように彼の出ていったドアを一瞥するのみだった。


「朝生君、本番良かったよ。快活そうな部分もちゃんと出ていたし、そのあとの表情も上手かった」

監督が蓮の評価をしている間に、俺は休憩中の純のところへ言った。

「お疲れ、純。よくあんなに無表情保ってられるっスね!」

『涼太君ありがとです!』

純は頬を緩めて、ふんわり笑った。

『でも表情作らなくていいのって意外とラクですよ?』

「そうなんスか?でもあんなふうに微笑まれたら、笑顔返したくなるじゃないスか」

『ん、…そうですね。返したくなるけど、朔は返さないです。心を彼に開いているわけじゃなので。きっと、朔は一線をひいて、周りと関わってるんですよ』

ストローのささったペットボトルを手で弄りながら、蓮の方をみていた。監督と話す彼に向ける視線は真剣そのものだ。

『話を戻すと、ラクだといいましたけど、表情があんまりない役だからこそこんな表情だろうって考えなくていいんです。ただ、問題なのは話が進んでいく過程でどう変化をつけるか、で。だから今は蓮君や涼太君は大変だと思います。でもすごく馴染んでて、僕よりも素質があると思います。続けたらきっと僕なんか敵じゃなくなります。それに一発OKなんて中々ないです。監督と台本作家さん達と役のイメージが食い違うことのが多いですから』

年下のはずなのに、現場の違いだけでこんな変わるんスね

純と同じ頃にはモデルをしていたけど、純みたいな大人のかおは出来なかった。それがいいのかと聞かれたらわからないけど、子どもでもプロ意識みたいなものがあるんだ、きっと。

「純はそこまで考えて演技してるんスか。それによく人を見てる」

『そんなことないです。…ただ小さい頃から評価が全てだから慣れただけ。涼太君はこんなつまらない人間になっちゃ、駄目ですよ?』

はっとして純の顔を見れば、そこにはうっすらとした笑みを浮かべた彼の姿があった。なんの感情もこもっていないように見えるその顔は、世間で人気を集めているあの小早川純という人気子役の顔とは思えないものだった。


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