ハッピーsmile


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「じんたん!明日は秘密基地、集まるんだろ?」

バイトの始まる前、ぽっぽが目を輝かせながら言った。……なんかあったっけか?と首を傾げてから、あっと思い当たることが一つあった。そうか明日、か。

「俺がみんなにメールしとこっか?」

じんたん疲れてるだろ?と、ぽっぽが気遣ってくれる。「頼んでいいか?」と聞けば、威勢よくぽっぽが「おう!」と、にかりと笑った。



母さんの分もまとめて夕飯を作っていたとき、ぽっぽからのメールが届いた。内容は明日、プレゼント持参で18時に秘密基地に集合とのこと。意図はすぐにわかった。

でもこれって、じんたんは何もしない方がよね?
主役に悟られちゃまずいし。

僕はバーベキューの二の舞はごめんだと、ぽっぽに折り返し「じんたんは悟られないように、主役見張ってて貰う方がいいね。ケーキは僕が。あとは他のメンバーにお願いしといて」と送った。

当日少し不安を残しながら坂を登っていれば、すでに基地には何人か集まっているようで賑やかな声が聞こえてきた。保冷剤とケーキを入れた少し大きめな四角い箱を慎重に持ち上げて暖簾をくぐれば、飾り付けをするあなるとつるちゃんの姿が。

「あ、保谷!ありがとね、指示してくれたみたいで」

「メインは大丈夫?大変だったでしょ?」

あなるとつるちゃんの作業はどうやら順調のようで、彼女が喜びそうな装飾が基地内を彩っていた。

『僕はお菓子しか作れないから。飾り付けもセンスないし…』

それよりもと室内を見渡して、『ゆきあつぽっぽは?』と、聞けば、「買い出しよ」とつるちゃんが教えてくれた。続けてあなるが、

「ぽっぽに任せると不安だらけだから、ゆきあつにも頼んだの。正解だと思わない?」

と、 同意を求められた。確かにぽっぽは“マサラチャイ”の前例がある。確かにおいしかったのだけど、見た目からNGなあれは祝い事には相応しくない代物だった。

僕は曖昧に笑って『そうだね』とごまかし、手元の腕時計を一瞥。18時30分に来ることになっているじんたんとめんまちゃんの事を考えた。

じんたんやぽっぽ、あなるがめんまちゃん宅を訪問してくれた際に、めんまちゃんのお母さんから預かった日記。あれのおかげで僕らは目に見えないめんまちゃんとの会話が出来るようになった。

あの日記がなかったら、こんなパーティーなど開けるはずもなかった。いくらめんまちゃんのためのパーティーだといったって、主役のめんまちゃんがいるのかいないのかもわからないパーティーなんて馬鹿馬鹿しい。と、ゆきあつなら言うだろう。日記しか僕らを繋ぐものは無いけれど、それがあるとないとではだいぶ違いがある。

程なくしてゆきあつとぽっぽがそれぞれ片手にビニール袋を持って戻ってきた。

あとは主役の彼女を待つのみだ。

死んだ仲間を祝うというのも、ちょっとおかしい気もする。ほんとは、地上にいるべきじゃない存在の彼女を祝うなんて不謹慎かもしれない。

でも彼女は僕らにとってかけがえのない仲間で、大切な友達だ。

成仏していないことが悪いだとか良いだとかこの際、問題に出しちゃいけない。今はただ、彼女を祝う事だけを考えよう。

この超平和バスターズで、小さい頃恒例行事のようにやっていたバースデーパーティーを。

待ちに待った暖簾が上がる瞬間を狙って僕らは一斉にクラッカーを鳴らした。

パンッパンッパパン

五人分のクラッカーが同時になる。盛大な音がした。暖簾だけがふわりと風で揺れて、そのあとすぐにじんたんが現れた。

ぽっぽの「せーの」で声を揃えて

『「「「「「めんま、誕生日おめでとうっ!!!」」」」」』

六人分の声が綺麗に声がそろった。日記のページがぱらぱらとめくれ、文字が書かれていく。瑠衣は一人でに動くペンを見ながら喜んでくれているかなと、笑顔を浮かべるめんまを頭に思い浮かべるのであった。




大きめの瞳からボロボロとこぼれ落ちる涙。しかし表情は心から嬉しそうな飛びきりの笑顔で。

日記でしか伝わらないめんまの気持ち。

今俺の前で嬉し泣きをするめんまのことをどうしても伝えたかった。

こんな嬉しがってんだ、めんま
やっぱり泣き虫めんまだよな

ってみんなで笑ってやりたい。
そのために伝えてやんなくちゃ。俺はこいつらとめんまを繋げる唯一の人間なんだから。

瑠衣の手作り感溢れるケーキを幸せそうに見るめんまに視線を向けながら、俺はもう一度「ハッピーバースデー」と呟いた。

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