空だけは快晴


空だけは快晴


夏の獣である本間芽衣子が現れたとき、ふとほたるのことが頭をよぎった。

一階に降りて塩ラーメンの袋をあけながら乾麺を湯に入れたときも、めんまが“かきたま”をねだって俺の肩を揺さぶっている最中も、アイツのたまに見せる笑顔が頭を埋め尽くしてた。

あの夏にめんまはいなくなってしまった。
どう努力したってあえないくらい遠くにいっちまった。

あの夏にほたるもいなくなった。
だけど、アイツはまだ手の届く範囲にいる。必死で探せば会うことだってできた。

それでも会いに行かなかった。

言い訳にしかなんないけど、あの当時はそれどころじゃなかった。母さんも入院してたりして、バタバタしてたし。

でも今思えば、あいつらと疎遠になる前に鶴見に聞いときゃよかったかなって後悔してる。めんまや母さんのことがあったけど、まだあの時、超平和バスターズのリーダーだったんだ。その俺がアイツを心配してやらなくて、誰がアイツを気にかけてやれる?鶴見は従姉妹だから連絡を取ってるだろうけど、それだって確証は得られない。

本名を保谷瑠衣。
鶴見が手を引きながら連れてきたほたるの第一印象は、“無口”で“無表情”。それに声を聞くまでは女だとばかり思ってた。小柄で色白、鶴見よりも背が低くて、黒髪ではなく焦げ茶色がかっているところもよく似合ってた。



どーしてんだろ、今頃。

ふと成長した目の前のめんまを見て、こんなふうに瑠衣も成長していたらと考えたら、思わず口元が緩んだ。

「あ〜、じんたん!変なこと考えてるでしょ〜!めんまにはじんたんのこと、何でもわかっちゃうんだからね」

人差し指で、俺の顔を指してくるめんま。それを手で払いながら、「別に何でもねぇーよ」と、投げやり気味に答えた。それでもしつこく追及してくるめんまを軽くあしらいながら、ぼんやりと成長したほたるの顔を想像した。




「…元気でやってんのかな」


仁太が無意識に呟いたそれをめんまは聞き逃すはずがなかった。

「きっと他のみんなだって元気だよ…!!だからお願い叶えてって頼みに行こう。もっかいあなるんとこ行こうよっ!お願いしよう、じんたんっ!」

あなるに見えていないことはつらかった。でもじんたんはめんまを見てくれる、じんたんはめんまの声を聞いてくれた。

それに今だってじんたんはみんなの、超平和バスターズのリーダーだ。だから、みんなの心配をしてくれてるんだ。

そう思って嬉しくなった。芽衣子はそれを信じて疑わなかった。きっと頼んだら、お願いも聞いてくれる。けど、仁太の表情は相変わらずの渋り顔で、放たれた言葉は芽衣子の想像とは全く違う言葉だった。

「そのお願いってのを、安城にしてみりゃわかるだろ。…安城だけじゃない。あの頃とは全部、変わっちまったってこと」

仁太の手元、先程はがしたばかりの冷えピタがぎゅっと潰された。

じんたん、なんで辛そうに話すの?
超平和バスターズは、仲間でしょ?

キョトンと首を傾げながら、芽衣子は不思議に思った。

外に出ると綺麗な夕焼け空が広がっていたが、仁太の心中には暗雲が立ちこめていた。

title: モノクロ メルヘン



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