side:jintan


ほたると秘密基地で別れて、俺達はめんまの家に行った。めんまの親の気持ちとか少し不安な要素はあったし、進んで行きたいって気持ちじゃなかったけど、めんまの部屋にもいれてもらえたし、日記も貸してもらうという収穫はあった。ただ気がかりだったのは仏壇に手を合わせていた時のあの視線だった。

「めんまの日記、こんなにあっさり貸してくれるなんて思わなかったよなぁ」

「いいお母さんだよねー」

「でも……寂しいよな、ああいうの」

ああいうの。
俺がそう感じたのは、めんまの部屋に入ったときの何もない空間のことだ。母ちゃんの時も感じたけど、その人が住んでいた時にあったものが一つもない空間はいつみても寂しい。

めんま本人がみたらどう思うだろう。

余計な考えまで頭によぎったせいか、俺はただ部屋にいるだけで息苦しかった。



「お父さんがね、いつまでも芽衣子に囚われるなって、この部屋を片付けちゃったの」

そう言いながら、めんまの母親は備え付けの押し入れから段ボールをひとつ取り出した。

「ここに芽衣子のものが…」

全ての思い出が たったひとつの小さなものにまとめられている。そう考えると少し辛かった。



「しょうがないよ、そういうの見えちゃったら余計辛いじゃない?」

安城が俺の前を歩きながら言った。

「見えたら……」

「母親の気持ちとかさよくわかんないけど、やっぱり子供のことって、スッゴい、めっちゃ重いと思うよ?いろいろ」

「お前がそれをいうか…」

安城の隣に並んで歩くぽっぽが呆れぎみにぼそぼそと呟く。その言葉に安城が息をつまらせ俯いた。

「……やっぱちょっと帰ろうかな」

足を止めた安城に「えっ?」とぽっぽが反応する。ちょうど三叉路の分かれ道だった。

「べ、別に親が心配とかじゃないよ?やんなきゃいけないこと思い出しただけっ。じゃーね!」

「はぁ」

「素直じゃねーなぁ。まっ日記はゲットできたことだしよっ、秘密基地戻って読んでみよーぜ?」

ぽっぽの提案に即座にOKとは言えなかった。それは俺の中でもある言葉が突っかかっていたせいだ。

「……それ、ちょっと…待っててくれねーか」

「…え、」

「あっ俺、今日夕飯の当番なんだよ!それに朝の皿も洗ってねーし……」

明らかにとってつけた言い訳をしながら、足を後退しはじめる。

「じゃーな!」

手をあげて、安城と同じほうへ向かった俺に、ぽっぽが言った。

「じゃあ先に…」

「なあぁ…!まだ俺がいない間は見るなっ。見んなよっ!」

振り返りながら答え、ぽっぽを置いてとにかく走った。

「…………俺、ぼっち…」


そんなぽっぽの呟きは勿論耳に入らなかった。




見えちゃったら辛い。

安城の言葉が頭のなかで反芻する。

…………だったら見えなきゃ良かったのか、めんまのこと。
いや、でも…………。

見えちゃったら…………余計、


…………見える俺は、どうしたらいい。






×