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side:hotaru 早く帰らなきゃ。 頭ではそう思うのに身体は鉛のようにずっしりと重くて思うように動いてくれない。 瑠衣は爪先の先にあった小石を蹴った。 「こんなとこで何してんだ?」 突然暗闇から声がした。 石を追っていた視線をそっちに向ける。 『…ゆきあつ』 「よっ」 『久しぶり…』 そこには制服姿のゆきあつが立っていた。隣のブランコにゆきあつが座るのを見届けてから、瑠衣も真正面に視線を戻す。 「……で、何してんだ?お前」 暫くたってゆきあつが口を開いた。 さっきより低いアルトボイスが耳を掠める。 何か答えなくてはと、瑠衣はぐっと口角に力を込めた。 『……その、ちょっぴり反省会をね』 「学校で何かあったのか?」 瑠衣の服装を見て判断したのだろう。 様子を探るようにこちらを見続けているゆきあつの目線を感じながら、出来るだけ平静を装い笑いかける。 『まぁそんな感じかな。それで頭冷やしたくて、ちょっと外にいたんだ』 「うまくいってないのか?」 『そうじゃないよ。僕の、内側の問題』 こわくてめんまちゃんがいるのかすら聞けなかった。家にいく話が出たとき、じんたんの視線に気づいていたからこそ、よけいにこわかった。 『……なんていうか、僕は相手の気持ちに臆測ばかりたてるから動けなくなる』 それにプラスしてささいなことすら聞けなくなるくらい弱虫だ。 「……そんなこともないだろ、お前は」 『えっ?』 「俺のことはすぐ追いかけてきた」 『あれは……』 確かにすぐ追いかけた。けどあれはつるちゃんが追いかけなかったからだ。つるちゃんだったら、ゆきあつを気にかけているとふんだから。 「それに臆測はそこまで悪いことじゃない」 『……えっ』 果たして本当に、そう……なんだろうか。 「臆測って言い換えれば、相手のことをそれだけ考えてるってことだろ。むしろ考えすぎるから、お前は動けないんじゃないのか?」 『…………』 「昔からあんま喋らなかったのも、何か物を言った時の相手の反応が気になって、言葉に詰まってるせいだと思ってたけど。違うか?」 見抜かれてる。 つるちゃんと同じくらい、もしかしてそれ以上に。 『……ゆきあつって意外と他人を見るタイプだったんだね』 誤魔化すように笑うと、「お前ほどじゃないな」といい、続けて「最近までは気づかなかったわけだから」ともいった。 『それって?』 「……あまり考えないようにしてたんだ、過去のこと。当時も……そうだな。やっぱり一番に頭を占めてたのはめんまのことだったし」 そういってブランコの持ち手をを強く握った。 「まずさ動かなきゃ始まんないだろ、何事も。ただし行動するには、目的をしっかり持つんだ。そうすればそれに向かって後悔しない行動がとれる。お前ならそれが出来る」 『…っ』 「……お前は俺らの中で人一倍思慮深いんだ。それを使うのは過去にじゃない。未来に活かせっ」 ゆきあつの真剣な声が、言葉が、僕の左胸に響く。 じっと反応を観察してくる瞳がそらせない。 僕も答えなくちゃ…、その気持ちに。態度に。 『…背中押してくれてありがとう。…そのっ…僕なりに頑張ってみるよ』 「おいっ、泣くなって」 ゆきあつが立ち上がって近寄り、背をなでてくれる。 感情のコントロールが得意だった。 でも最近…超平和バスターズのみんなと関わりだしてからは調子が狂い始めている。 泣くような場面じゃなかったはずなのに、そう思うたびに涙がでる。 きっとゆきあつも困ってる…… 内心とは裏腹に、瑠衣は暫くゆきあつの手のぬくもりに、背中を預けていた。 「まだここに残るのか、お前」 『ううん、帰るよ。もう帰る』 「そうか…、家どっち?」 『ゆきあつとは逆方向』 「残念。じゃあここでお別れだな」 『うん』 返事を返すと、片手をあげたゆきあつが背を向けて歩き始めた。その大きな背中にもう一度顔が見たくなった。 『ゆきあつッ』 「んー?」 『っ……ほんとありがと!』 街灯の下、頭だけで振り返ったゆきあつの顔が驚きにかわった。そしてふっと口角をあげて笑った。 「俺は何もしてない。じゃーな、……ほたる」 『っ……うん、またね!』 僕は小さく手をあげて、ゆきあつを見送っていた。 ×
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