side:jintan


何があったかまでは結局言わなかったが、とりあえずほたるが落ち着きを取り戻した。

「つーわけでさ、二人もいかねーか?めんまんちによぅ!」

おねがいのヒント探しをしたいと熱弁するぽっぽに、安城が賛同した。

「んー、今のままじゃ八方塞がりだもんねー。それいいかも!」

手を叩いて喜ぶ安城をみてからほたるを見た。乗り気な安城の表情とは違い、マグカップに手を添えて何か考えている表情をしている。

どこか様子のおかしいほたるに声をかけようとした時、先にぽっぽが声をかけた。

「ほたるはどーするよ?」

『僕は………』

「ん?」

言い淀んだほたるがちらりとこちらを見た。目が合うと、ふいとそらされた。

「?」

『行かない』

「ほたる?」

『今日学校休んだこと母さん知らないから、帰って事情話さなきゃだし、折角だけど今回は止めとくね』

ふんわり笑ったほたるにさっき感じた違和感はない。さっきのは一体……。

「それならしゃーねぇなよなぁ。早めに帰ってた方がいいんじゃね?家にいた方が安心するだろうし」

『ごめん。そうするね』

申し訳なさそうにいって暖簾をくぐっていくほたるを三人で見送る。

その後ろ姿に違和感は感じなかった。











side:tsuruko

「ねぇ鶴見さん」

「?」

放課後。
知利子が帰ろうとして鞄に荷物をつめていると、クラスの女子生徒から声をかけられた。

「みなこがさ、これ松雪君に渡してくれって!」

一人は手紙を差し出してきて、もう一人は後ろでもじもじと恥ずかしそうに照れている。

…………呆れた。
頼むことも他人任せなんて。
あのお人好しなら引き受けるんでしょうけど。

知利子は席を立ち上がりながら言った。

「同じクラスなんだし、自分で渡せばいいじゃない」

「えっ……ちょっと鶴見さんっ」

「、エラソーにっ!いっつも隣に居られるからって上から目線?!」

逆ギレしたのは頼んできた彼女ではなく、みなこと呼ばれた彼女で、意味がわからずに「はぁ?」と二人の方を振り返った。

「わかってるんだからッ!鶴見さん、松雪君のこと好きなんでしょ!!」

「なによ…」

知利子が困惑し眉をよせていると、後ろの扉から「鶴見?」と声がした。

「どうかしたのか?」

近寄ってきたのは松雪本人だった。

「ん?」

松雪はこっちを見ていた彼女たちの方をみて首を傾げた。松雪は息を詰まらせ罰が悪そうに逃げるように去っていく彼女たちに追い討ちをかけた。

「帰るの?気をつけて!近頃この辺変なやついるし」

何が変なやつよ。

へらへらと作り笑いを浮かべる松雪を睨み付け、知利子は無言で教室を後にした。




日がまだ高い。
夕方6時でもまだ日は沈んでいなかった。

ドアが開き、松雪と知利子は三峰口行きの電車に乗る。最初に口を開いたのは松雪だった。

「お前、いつもあんなふうにやっかまれてるんだ。迷惑かけるな」

二人席を陣取るように座った松雪に対し、知利子はその二人席から背を向けるように四人用のボックス席へと腰をおろした。

「あんたの女装写真送ってやったら、一発でその悩みも解消だろうけど」

「だろーなぁ…。…………そーいや宿海ら、めんまの家に行くらしい」

声が低くなり機嫌を悪くしたのがすぐに伝わった。

「へぇ本気にしてるんだ、皆?宿海の言うこと」

皆も、それから瑠衣も。
一体何を根拠にめんまを信じてるんだか。

知利子は電車と共に流れていく景色に目を向けた。

「みんながみんな過去を過去には出来ないってことで」

「松雪集を筆頭としてね」

「……否定しない」

その言葉に後ろを振り返った。

「…素直になったもんね」

「お前相手にしちゃあ、どんな言い訳も聞かないだろ」

ちゃんとわかってたんだ。

知利子は頭を戻し、目をふせた。

小さな時からずっと隣で見てきたのだ。わからないことが何ひとつないとまで、言うつもりはさらさらないけど、少なくともあのみなこという女子生徒よりは彼を理解している。その自信があった。

「……腹立つんだよ、アイツ」

「宿海?」

「高校のレベルも、なんやかんやのステータスも、今じゃ全部俺の方が全然上なのに、あの頃みたいにアイツに振り回される…。めんまの名前まで出してきやがって何処まで人を苔にすれば気がすむんだ?………あの日 だって、アイツが…秘密基地に集まろって言わなけりゃ……」

松雪の言葉に疑問を感じて呟いた。

「あの日は……めんまが言い出したんじゃなかったっけ?」

「えっ?」

「うん、そう。めんまに電話で呼び出されて……」

呼び出されて……そのあとどうしただろう。

知利子は無意識に顎に手を添えた。
記憶を呼び戻そうにも、そのあとのことが出てこない。電話口で言われたことまではすんなりと出てきたのに歯がゆい気持ちがする。

「電話で……」

松雪も知利子の言葉を拾い呟くと、すぐに「あっ」と声をあげた。

「そうだ!あの日何か相談が…」

「そう、めんまが相談したいことがあるからって……」

松雪もそれ以上出てこないのか口をつぐんだ。振り返ると戸惑いを隠しきれない彼の瞳と目があった。






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