side : hotaru



『あっ、ぽっぽ』

「あれ、ほたる?」

じんたんちから駅に向かう途中、偶然にもぽっぽに出くわした。新聞配達のアルバイトを終えた帰りだという彼は不思議そうに瑠衣を見た。

「今から学校?にしては遅刻ギリギリじゃねーの?」

『あーうん。HRくらいならいいかなって』

「…ん、何か元気なくないか?ほたる」

『えっ?そんなこと、ないと思う…けど?』

「うーん………」

上から下まで見定めるように見てくるぽっぽに内心心臓がどきどきする。

もしめんまちゃんだけでなく、じんたんにあの手紙を読まれたら…なんて考えていたのがバレたかと思ったのだ。

『ぽ、ぽっぽ?』

「……何か不安なことでもあんじゃねーの?」

『そう、見える?』

「これから学校いくぞーって顔じゃあなかったよなーって思ってさ。まぁ見間違いならいいんだけどよ。……けど」

『けど?』

「ひとりで悩みまくってる仲間の顔は…、もう…見たくねえんだよなぁ」

ぽっぽの言葉に自然と浮かんだのはゆきあつだ。

あれを目の当たりにして、ぽっぽはそんなことを考えていた、だなんて。

『…、心配ありがとね。確かに、僕はメンタル強くない……けど、追いつめすぎて周りが見えなくなるほどじゃないって…そう思ってるから』

「ほたる……」

『……ぽっぽのいうとおり、学校行きたくなかったのは当たってる』

でも大丈夫だから。と、自分に強く言い聞かせる。
これ以上不安がらせちゃいけない。
だから「じゃ、やっぱなんか…」と、戸惑ってるぽっぽに笑いかけた。

『だから…、今日は思いきって学校休んじゃうことにするよっ』








しつこかったぽっぽの詮索に、丁寧に答えようやく納得してもらい、コーヒーをついでもらった。

「珍しーよな、ほたるが学校サボりたいなんてよ」

『僕だってそういう気分になる日くらいあるよ』

まだ言葉の端々に疑っているような節も感じられるけど、笑い続けていつもの自分をつくる。やっぱり学校行けばよかったかなと思いはじめていたころ、バタバタと足音がした。

「おっ?何だか外が騒がし……ってあなるー?!」

『あ、じんたんも?』

のれんを潜り抜けてきたのはあなるとじんたんだった。じんたんは鞄を2つももっている。

じ、じんたん?

瑠衣は焦ってじんたんを見た。

いくらみてもやっぱり、めんまちゃんがいるかはわからなかったけど。

「今日から私、ここに泊まるからっ!」

あなるは来て早々に基地を掃除し始めた。ぽっぽが動揺し、じんたんは呆れたように彼女を見ている。瑠衣はいろいろとついていけずにぼーっとしていた。

「っお、おい!泊まるったってあなるお前よぅ!」

「ほとぼりが冷めるまでだってば!」

「ほとぼりって……!っ、ここはな、汗やら涙やらいろんな男汁の染み込んだ俺の城でー!!」

「皆で作ったんじゃん!それが証拠に、ほらっ!!私がハム太郎彫っといたんだからっ」

自信満々に指を指した場所に描かれていたのは、似ているようで似ていないハムスターの絵で。それには二人ともビミョーな表情をした。

「ハム太郎?」

「ハムっつーより、バイエルン?」

「まずっその男汁てゆーのが臭いから掃除しますー!保谷も見てないでほらっ手伝って!」

『えっ…』

何で僕?

「えっ、じゃない!」

『う、うん!』

あなるの気迫にびくりとして瑠衣も近くに落ちていたカップ麺やら缶やらを集め始めた。

「ちょちょちょちょちょっとッ?!!そこはさわんなぁ!」

ぽっぽのエロ本を容赦なくまとめ始めたあなるに彼の悲鳴がこだました。










「わあああ!!何コレ腐ってるー!!!」と悲鳴をあげながらも着実に綺麗になっていく基地。そのゴミの量に今までここで生活できていたぽっぽがすごいと思わず感嘆せずにはいられない。

「ったく、どうしてこんなになるまでほっといたのよ、あのバカッ」

『あははは……』

さっきから文句をぐちぐち言うあなるに、僕は苦笑しかできない。ちなみにいちいち悲鳴をあげるぽっぽとじんたんはあなるによって基地の外へ追いやられていた。

そのときの台詞が「邪魔だから男子は外に出てて!」だったのだけれど、「保谷は残るのっ」と、引き戻された。

「そーいえば何で学校行ってないの?」

今、授業中じゃない?と首を傾げたあなるに、ぽっぽの時と同じ答えを返す。

『僕も人間だから、気分がのらないときもあるの』

「小学生のとき毎年皆勤賞もらってた保谷に言われても説得力ないよ」

『……なんで覚えてるの』

「っ、だって…何も喋らなかったから!……だからアンタのこと調べるしかなかったのっ!じゃなきゃっ、仲間になれないと思ったんだもんっ」

赤面してそっぽを向いたあなるに対し、僕は初めて知った事実に困惑を隠しきれなかった。

僕のことを知ろうとしてくれてたの?
仲間として意識されてたの?

『な、なにそれ…』

「っ保谷?」

こんな僕に歩みよろうとしてくれてたなんて知らなかった。考えてくれてたなんて、そんなの…。

『っ……』

「えっ、ちょっ!!何泣いてんのよっ」

『……ぁ、ありがと……』

精一杯の感謝が涙声で伝わったか分からない。

すぐにあなるの声に驚いたじんたんやぽっぽが慌てて入ってきたのだ。だから確認すらできなかった。でもだからこそ、この気持ちはまた改めて、伝えられたらと思った。






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