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ダンッ!!! 机を叩く音がした。一瞬で教室が静まり返る。 恐る恐る顔をあげれば、目の前の宿海が席から立ち上がっていた。 「おっ、お前らッ………お、俺を見ろっ!!」 宿海の言葉に先生までもがチョークをとめ、振り返っている。 「ヒッ、久々に、が、学校に来た男だッ……にゅ、入学式と、さっ、最初のい、一週間しか来てねえ……」 緊張しているのか身体が震えているのが、見てとれる。それでも宿海は両手で支えながら何かを伝えようとしていた。 「ど……どっ、どうだこの顔ッ!さぞ珍しかろうっ!!!」 宿海の発言にクラスメートはざわざわとしだし、先生は驚いたような顔をして名簿を見ていた。 宿海、みんなの気を剃らしてくれたの? でも言ってることが支離滅裂だ。 「えっ?!えと……君は、宿海君?」 先生のあとに、「じ、じんたん?」と困惑し呟きかけた私の言葉をさえぎって、「コイツなんてッ」と宿海が指を突きつけてきた。 「いつでもどこでもホイホイ会えるッ! ラブホー? それくらいで大騒ぎかっ。コイツはどう見たってラブホの1つや2ついってそうな….ラブホ顔じゃねーか!!」 いや流石にそれはない!! 「ちょ、!!」 「だ、だからッ!!」 反論しようとして口を開きかけたことをまたも宿海に邪魔された。 「いっておくがコイツに限って、エンコーなんてぜってーやらねぇ!!」 ッ、!!! や、宿海は信じてなかったんだ。あの噂。 そう思ってほっとしたのか、涙腺が緩んだ。 「それに何しろコイツはA型山羊座。冒険なんて無縁なクソ真面目で眼鏡で仏頂面で物持ちよくって、整理整頓大好きで、ちっちぇ時からチマチマしたもん集めてて…」 っ?! 途中から可笑しな発言だということに気づいて涙が引っ込んでしまった。 「眼鏡でクソつまんねー女ッ、」 「よっ余計なことゆーな!!」 後ろから手で宿海の口をふさぎ、「ほらっもう鞄もって!!!」と、どなり、肩を掴んで教室を飛び出した。 恥ずかしくてしょうがない! 先生の「待ちなさい」という声も聞こえたけど、そんなの気にしている余裕なんて、一ミリたりとも存在していなかった。 「はははっ、はは」 可笑しくて笑いが止まらない。 「俺を見ろだって…どう考えたってヘンタイじゃん」 笑いすぎて涙さえででてきた。 あれから学校を飛び出して公園まで来た。屋根のある場所に座り、こちらに背を向けていた宿海に話しかけた。 「うるせーな」 こちらからじゃ顔色はわからないけど、何となく昔の宿海を沸騰させる物言いに頬が緩む。 「……でも、ありがと。私のこと、庇ってくれた」 「いや、それは……」 「でも!」 「っ!」 こちらを向いた宿海がびくりを肩を揺らす。 「ラブホ顔はない!ほんとにラブホ行ってなんかないしっ!てか入ったこともないしッ!!」 立ち上がって抗議すれば、「はいはい。分かったから」と気のない返事が帰ってくる。 「はいはいって何?!」 あんな大勢の前でラブホ連呼するし、あれじゃ次教室行くときどんな顔すればいいかわかんないじゃない。 そんな気持ちを込めた全力の抗議は、宿海の呆れも混じったような真剣な表情の正論に打ち消された。 「いいからとりあえず家に戻れよ。お前の母ちゃんも心配してるだろーし」 「うっ……」 反論できないことが悔しくて、鞄も放置したまま、公園の出口へ進んだ。 「おいっ!!何処行くんだよッ、お前んちこっち!!」 そうだ。 自分の家が今向かってる方向にあることくらい知ってる。てか高校生にもなって地元の公園で方向がわからなくなくほど、頭は悪くないつもりだ。 でも。 「家には帰らない」 「はぁ?」 「学校からもう連絡いってるに決まってるもん。絶対怒られるっ。あの人こういうの絶対許してくれないし」 母はこわいのだ。 一人っ子だからわりと寛容ではあったけど。 それだけ言って走って出口へ走った。宿海の呼び止める声がするけど、それからも逃げるように走った。 ×
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