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side:hotaru あなるが虫除けスプレーを自分の足元に噴射しているのを見て、僕も持ってくれば良かったなんて後悔した。 …流石女の子だなぁ。 感心しながら眺めていれば、つるちゃんが近づいてきて、「貴女まで来る必要なかったのに」と辛辣な言葉をはいた。 「ひ、暇だったんだもん!!もういーじゃん、もー」 腕を組ながら少しムスッとした顔であなるが反論。それから「コレ使う?」とスプレーを差し出して、「バーベキューのあとそこら中、痒くって」と言った。 なんだ、あの日は塗ってなかったのかと思って、僕も会話に口を挟んだ。 『確かに痒かったよね、僕もたくさん刺されてた』 「だよね〜。あっ!保谷はもうぬったの?よかったら貸したげるけど」 『いいの?!』 「うん、買ったばっかだからまだ残量あるし」 『ありがと!』 瑠衣は素直にお礼を言って、スプレーを軽く振った。シャカシャカと液体の音がなる。確かにまだ沢山あるみたいだ。 『つるちゃんホントに塗らなくて平気?』 と聞けば、間髪入れずに「私は大丈夫」との答えが返ってきた。…うん。相変わらずだ、つるちゃんは。 「…それより肌の露出減らしたら?」 「いーじゃん、可愛いでしょ?ね、保谷」 『僕に振らないでよ!』 というか巻き込まないでってば。 そういうことはじんたんに、と後ろを振り返れば、何やら深刻そうに俯くじんたんがいて…。 『じっ…』 「ブンブンブブブーーン、キキィー!!」 声をかけようと手を伸ばしたところで、賑やかな声と騒がしいバイク音が聞こえた。ライトの眩しさに思わず顔をしかめ、そっちを見るとバイクに乗ったぽっぽがいた。 「あれー?何でみんな集まってんのー?パーリーナイッ?」 「いいから早く消しなさいよ、眩しいじゃない!!」 「お、おう。ソーリーソーリー」 あなるの言葉にぽっぽがライトを消すのを確認しながら、じんたんに視線を戻した。 さっきまでの暗く沈んでいるような表情はない。大丈夫ならいいんだけど。 聞きそびれたことを少し後悔したけれど、人にはプライバシーってものがある。あんな表情のじんたんを詮索するのは何だか止めておいた方がいい気がした。 「うんめー!!やっぱ缶コーヒーとはちげぇーな。うーん、最高ッ!!」 「バザーで親が新しいの買ってきたの。お古で悪いけど、よかったらここで使って?」 「お前、いい奴だな!!」 それぞれマグカップを手に、コーヒーを飲んだ。…確かに一味違う。紅茶派だからあまり飲まないけど、香りが違うのはよくわかる。ぽっぽは大げさ過ぎると思うけど。 「そう?」と椅子に座ったあなるの不機嫌そうな声に顔をあげると、「しかもマグカップまで持って来てくれたし!」と感嘆気味にぽっぽが言った。 「コップ、コレクションしてて」 『確か戸棚にスペースあったよね、コップを飾る』 「……コレあんたの趣味なの?」 『可愛いよね、つるちゃん!』 「…えぇ、何か問題でも?」 「べっつにー、なんか個性的だなと思って」 『…つるちゃん照れ隠し?』 つるちゃんとあなると談話していると、突然ぽっぽが立ち上がった。 「そだ!!これめんまにも飲ませてやろー?な、じんたんっ!!めんまいるー?」 キョロキョロ辺りを見回しながら、「この辺?この辺かぁ?」などと動くものだから、中のコーヒーが零れないかヒヤヒヤものだ。 でもめんまちゃんがいるなら、飲ませてあげたい。 その気持ちはわかる。だって彼女も僕達の仲間だから。 「何やってんの?」とあなるが突っ込み、「おい、ぽっぽ…」とじんたんが困惑顔でぽっぽを見ていた。 「バーベキューのあと、俺考えたんだけどさ」 つるちゃんとあなる、つまり僕達の方を見ていたぽっぽがじんたんの方を振り返っていった。 「めんま言ってたんだろ?みんなが集まってくれたら嬉しいって。なーんかさそれめんま言いそうだなって、俺ちょー合点いったんだよ!!」 「ぽっぽ…」 「忘れられたくないって忘れられるはずはずないのにな。めんまってばもー、心配性なんだからぁ!」 ぽっぽなかなかいいこと言うなぁ… 思わず目元がうるっときて、片目をさすっていると、じんたんの「エッ」という声が聞こえたと同時くらいのタイミングで、ぽっぽの体が大きく倒れかかってきて… 『うわ、』 もう駄目かも! 目をぎゅっと閉じて、来るであろう衝撃に身をかたくしていたら、「ちょ、え? …何やってんの?!」と焦ったようなあなるの声がした。衝撃もこない。 あれ?と思って目をあければ、不安定な状態ながらもふらふらとバランスをとっているぽっぽが目の前にいた。その姿はまるで… 『タップダンス…?』 「いや、ちょぃ…違うかな…」 ぽっぽが苦笑い気味に言った後、身体を震わせ「うぅー、ゾクゾクするー」と青ざめた。 そして大丈夫と声をかける暇もないくらい、すぐに「飲みすぎたかな…小便大かいほーう!!」と叫んで、基地を飛び出していった。 何だか気まずい… あの発言のせいなのかはわからないけど、ぽっぽがいるといないでは雰囲気が一気に変わる。 あなるもコップを両手でもってコーヒーを飲んでいるし、つるちゃんも目を閉じ壁に体を預けていた。じんたんはというと、座ったまま何か考え事をしているかのような思案顔だ。 「めんまを忘れられなくて」 「え?」 つるちゃんの言葉にじんたんが顔をあげた。 「めんまに捕らわれて。情けないな、お前」 淡々と抑揚無く話すつるちゃんにじんたんが俯いた。瑠衣は一瞬誰の言葉か分からずに首を傾げ、あなるは「ちょっ、ちょっとつるこ…」と制止の言葉を言った。 「ユキアツの言ったアレ、全部自分の事よ」 「へ?」 あ、あの時のゆきあつの言葉だ。 確かにバーベキューの時の彼は、じんたんを馬鹿にしているような態度でその言葉を言った。よく思っていないことは昔から態度でわかったけど…。 なんて考えていたところで、「うぉおおおお!!」という叫びとともに、暖簾がぶわぁっとめくれあがった。 四人が一斉に入り口をみた。 「…何やってんの?」 「チャック全開よ?」 女性陣の鋭い指摘をぽっぽは、まるで気にしていないのか、「っていた!!いたんだよっ!!」と大声をあげた。 『「「「へ?」」」』 見事に声を揃えて驚いた僕ら。ぽっぽはそんなことを気にもとめずにさっきの勢いのままに叫ぶ。 「めんまだっ!!!!」 め、めんまだって?! にわかに信じがたい思いで僕は、この後暫くぽっぽを凝視してしまった。 ×
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