side:jintan

坂に置かれた蝋燭が揺れるなかを基地に向かって引き返した。
ぽっぽが残念そうに「結局、見つかんなかったなぁ」と呟き、めんまも「ちぇー。つまんなーい!めんまも見たかったのにー」と頬を膨らます。

…ひとりいれば十分だろ。

そんなめんまを見ながら、坂を登りきれば、

「お疲れ、肉焼けてるぞ」

と松雪の声がした。
めんまは嬉しそうに駆け寄って「お肉〜おっ肉〜♪」なんて喜んでいるけれど、ぽっぽは不満なのか松雪に「何一人でくつろいでるんだよ!」と文句をいった。

「あぁ、めんまの頼みだからな」

「?」

松雪が満更でもないようにさらりと爆弾を落とす。
…はぁ?何言って…
めんまならここにと、視線を動かせば、めんまも不思議そうに首を傾げている。

「めんまが俺の前に現れたとき言ってた。これ以上騒ぎ立てないでくれって」

「えぇ?!そんなこといったのか、めんま」

松雪の言葉にぽっぽが下を向いた。「あぁ、よく聞き取れなかったけどな」と松雪が続け、さらに

「願いだ何だって勝手に騒がれて、迷惑なんじゃないか?」

と、吐き捨てるように言った。
野菜に視線を向けたままの松雪を見ていれば、松雪の隣にいためんまが松雪と俺たちの間に立つように前に出て、「そんなことないよっ!!!」と涙をこぼしながらいった。

「めんまはみんなが集まってくれて、みんながめんまのこと思い出してくれて、…ッその方がずっとずっと嬉しいよ?…めんまが死んじゃっても、みんなにはずっとずっと仲良しでいて欲しいから、…だから…」

他の奴には見えてないのを承知で、必死に仲間のことを想うめんま。涙声で一生懸命に話すのは、俺にしか見えない。

「…まぁ、めんまがそう言うんなら止めた方がいいんかな」

「かも…」

先程いった松雪の言葉にぽっぽや安城が同意していく。めんまは俯きながら「…違うのに」と弱々しい声で否定した。

その声が俺の中にある何かを突き動かした。両手に自然と力が入って、拳をつくる。

「おっおい、みんな!!ちょっと、コレ」

俺はバイエルンと一緒に持ってきたパックを四人の前にだした。

「ん?」

「蒸しパン?」

と、ぽっぽ、知利子が反応を示して、すぐさまぽっぽが「ほぉお!!」ポンと手のひらを打って

「懐かしい!!じんたんの叔母さんがよく作ってくれた奴じゃねぇかよっ」

と嬉しそうに言った。安城も「わぁ!懐かしいっ」と声をあげ、ほたるもぽかりと口を開け珍しく驚きを表していた。

俺は松雪の方を見て、それから左手にもつパックの中身を見た。

「コレめんまが作ったんだ」

途端に、眉間に皺を寄せた松雪が俺を睨み「はぁ?」と不機嫌丸出しの声を出した。ぽっぽも「あー、えっとー…」と視線をさまよわせる。

「(信じてもらえないのは重々承知だ。……けどっ)」

めんまが俺を呼ぶ。
これは俺自身が作り出した幻想かもしんないけど、でも…

松雪が眉間あたりを抑えて哄笑する。悔しくて、パックに力がこもった。

「ユーレイが蒸しパン作ったって?そりゃあ流石に話盛りすぎだろっ。なぁ、久川もそう思うだろ?」

馬鹿馬鹿しい。
そんな気持ちがあらかさまににじみ出ている松雪の言動に、ますます悔しさが増す。
話を振られた側のぽっぽも人差し指で頬をかいて、「あ、えーと…斬新そうだとは思うけど…。」と言った。

まぁ戸惑うのも無理ねぇけど…めんまがもう一度俺を呼んだ。

大丈夫だって、心配すんなよ。
お前の気持ちは俺が伝える。
絶対伝えてやる。

「キモいって思われても、イカレたって思われても構わねぇーよ!!」

俺にしか見えないんだから、俺が伝えてやんなきゃあいつらには届かない。めんまの必死に叫ぶ気持ちは伝わらないんだ。

「めんまは言ってる。みんなが集まってくれたら嬉しいって、忘れないでいてくれたら嬉しいって。…そう言ってる」

めんまの大きな目から涙がこぼれたのと同時に、

「その辺で止めとけよ」

静かな怒気の込められた松雪の声がした。

「ッ!!」

あまりに冷え冷えとした声に思わず身が竦む。

「めんまを忘れらんなくて、何時までもめんまにとらわれて、情けないなお前」

俺を見ながら、敵意すら感じさせる視線を投げつけてきた松雪は「あーあ、シラけたな。あとはみんなで食ってくれ」とトングをぽっぽへと投げて坂を下っていった。

気まずくなってしまった空気に仁太もガジガシと頭をかいて、「悪い、俺も帰るわ。蒸しパン、みんなで食ってくれ」と松雪を追って坂を下りた。
心配そうにあとをめんまがついてくる。だけど、お互い何も言わなかった。


…でも赦せなかった。
めんまの気持ちを勝手に踏みにじるようなアイツの言動に。

ま、まぁ。
思い返してみれば、確かに恥ずかしい。
だけど、後悔だけは微塵もしてなかったんだ。

そんなときケータイが軽く振動した。めんまをいじるのをやめて、ボタンを操作すれば、今日加えられたばかりの名前が表示される。


from:ほたる
sb:遅くにごめんね
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僕は、信じるよ。
じんたんのこと

じんたんがめんまちゃん
のことを、冗談で言える
はずないって思ってるか
ら。


「……ほたる」

思わず声が漏れた。隣ではめんまがキラキラと目を輝かせ「すごいっ!すごいよ、じんたん!」と嬉しそうに言った。

「えっ?すごいってお前…」

「自分のケータイもってるんだね!すごいっ、大人みたい!!」

なんて笑顔で言うもんだから、つられて俺も笑ってしまった。ちくりと胸が痛んだことは、気づかないふりをしよう。

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