side:hotaru

「じんたーんっ、行くぞー!!」

急かすようなぽっぽの声にじんたんが一度坂の方に目をやり、ゆきあつを気にしながらも走っていく。手を振ってその様子をゆきあつは見ていた。
瑠衣は笑顔を貼り付けて笑うゆきあつが気がかりではあったけれど、じんたんを追って坂を下った。
その時、一瞬見えた歪んだ表情を脳裏に刻みながら……


「おぉーいっ!!!!」

森全体にぽっぽの声が響きわたる。走りながら、「めんまー、おーいっ!!」と叫ぶ。徐々に彼との距離が離れて行くのを感じながら、せめてつるちゃんには離されないようにと後を追う。

『はぁ……はぁ…』

息切れしないつるちゃんの背中を追いながら、女の子より体力ないってどうなんだろと思った。
身長でさえつるこに負けているのに、その上体力もだなんて…

『(ほんと……情けない、な)』

瑠衣が内心落ち込んでいると、前方から声がした。もちろんつるちゃんだ。

「大丈夫?」

『あ、うん』

「なら、いいけど」

それからはお互いに無言になって、ただただ坂を下った。ぽっぽの声がいつの間にか聞こえなくなって暫くして、またつるちゃんが口を開いた。

「…瑠衣は信じてるの?」

その問いの意味はすぐにわかった。けれど瑠衣は敢えて答えずに『何のこと』と尋ねた。

「答えたくないなら、そういえばいい」

『(そうじゃないんだけど…まぁ、いいか)さっきも言った通り“本当に”信じてるよ、僕は』

じんたんも、じんたんのいうめんまも。
本当を強調させて言えば、つるちゃんの足が止まり振り返った。
構わずに続けて、『彼女の事を、冗談半分で口にするわけがない。ましてや僕らの前で』と言えば、「そう、」とつるちゃんが曖昧に頷いた。

つるちゃんの横顔からは、何も感じ取れない。でもさっきの同意が本心からではないことは、何となくだけどわかった。

「おーい、みんなー!!そっちいたかー?」

そんなときタイミングよく、ぽっぽの声がして「…行きましょうか?」とつるちゃんがいう。僕も『うん』と頷いて、ぽっぽの待つ沢の方へ下っていった。




×