- ナノ -




家族の幸せ(鏡花水月・明鏡止水)


フガクから木ノ葉警務部隊隊長の地位を継ぎ、また、うちはの若き長として一族をまとめる立場となった。
就任したばかりの新しい火影を支える相談役としても期待され、他国へ名を響かせる名声から外交役としても重用された。
世界で見れば、大きな戦争が無くなった事で人々の交流がずっと近く密になり、技術の発展と共に国と里の垣根が薄くなった。
望んだ平和は日を重ねて、ほんの少しずつ形になっている気がする。
それは木ノ葉を支える新しい焔である七代目の人柄と力もあるだろう。
うちはイタチとしては、その下で支える一人としても、共に生きる身内としても誇らしかった。
勿論、解決していかなければならない問題や課題は常に消えないし、地位と責任からくる忙しさは目の回るほどだ。
それでも、やってくる日々と今の自身をイタチは幸せだと思っている。

「それで今日のアカデミーの授業でまた勝負ふっかけられたんだよ」
「また?」
「うん!また!」

食事を口に運びつつ相槌を返す名前へ力強く頷くのは今年アカデミーに入学したばかりのなまえ。
フォークにトマトを刺してモグモグと食べつつ、子供ながらにウンザリした顔で話を続ける。
イタチは特に何も言わずに耳だけを傾けていた。

「オレは別に気にしてないってのに、全然聞いてくれなくってさ!」
「で、勝負したの?」
「してない。だってアイツ、くノ一クラスの先生に連れ戻されちゃったから」
「あらら。ミライちゃんも残念だっただろうね」
「そこは安心するだろっ、母さんもミライの味方かよ!」

話題は入学して早々、競い相手になった女の子の話。
一方的にライバル認定されてしまい、当のなまえは逃げ回っているという。
思いがけず母がミライの肩を持ったものだから、なまえの浮かべた嫌そうな顔は嫉妬ではなく疲労を前面に出したものだった。

「女子ってすぐ群れるよなぁ…よく分からねぇ」
「そういう言い方する?なまえだってよくゲーム友達とあちこち出掛けて遊んでるでしょ。多少違いはあるけど、男子も女子も仲の良い子たちと集まるのは同じじゃない?」
「女子の方が陰湿だよ陰湿。オレは、ああいうの苦手だ」

すぐキャーキャー言って応援したり寄ってきたりするし、と邪見に出来ない性格なだけに漏らす本音。
ブツブツと話すのは、ココが家で、いるのが家族だけだから。
外でのなまえの事を聞いているイタチは、その評判を思い出す。

文武に優れた才能、人目を引く容姿の良さ、人隔てしない人脈の広さ。
幼いながら、どの方面を見ても平均より優れた素質と才を持ち、快活で明朗な性格はほとんどの人々から覚え愛でたい。
うちは一族の次世代を担う天才少年。
かつて同じ肩書で呼ばれていた身ではあったが…と、改めてなまえを見やる。

「……」
「何だよ、父さん」

ムスリとした顔で返してくるなまえに、フッと頬を緩めて苦笑した。

「いや、何でもない。良かったじゃないか、ライバルができて」
「アイツが一方的に決めつけてるだけだから!オレは、そんな事思ってないし!」

ライバルじゃないし!と、イタチへはっきりと反論しながらも食器を綺麗に流しへ片付ける。
戻って来たなまえが傍へ立つのを観察しつつ、イタチは残りの食事を味わった。

「オレと母さんは良い好敵手でもあったんだぞ」
「知ってるよ、何度も聞いた。でも、オレとアイツは違ぇーよ!」
「なまえはミライちゃんの事嫌いなの?」
「はぁ?」

空になった二人分のお皿を片付けに入る名前は会話に入ってなまえへと聞く。
すると、今度は何を言っているんだというような間抜け声が上げられた。
てっきり否定が入るのかと思っていたから、目を丸くしてしまう。
この感触なら、なまえが抱いている感情は、昔にサスケがナルトへ抱いていたものだと思われたからだ。
イタチも同じ事を考えていたらしく、顔を見合わせてしまった。
そんな両親を交互に見てからなまえは大げさに溜息を吐いて、右手をポケットに突っ込んだ。

「嫌いになる訳ないよ。ただ、アイツ…真面目過ぎて突っ走る所あるじゃん、そこが苦手なだけ」
「分かった、それで振り回されてるんだ?」
「振り回されてねーし。オレが付き合ってやってるんだよっ、放っとけ無いからな!」
「結局、いつも勝負するのか?」
「ああ!オレが勝つけどね!」

ウンザリ顔で逃げがちのようだが、最後は折れて勝負になるらしい。
でも負けないと得意げにするなまえは左手でグッドポーズをしてみせる。
ニカッと浮かべる笑みのまま言い放った。

「ライバルじゃねーよ、ミライはオレの友達だ!」

実に堂々とした宣言であり、小さく笑ってしまった名前はイタチと目を合わせる。
何も言わないイタチも穏やかな笑みを向けていた。
対して、両親を言い負かしたと満足したなまえは既に意識を別へと向けている。
リビングにあるテレビの方を確認して、放置しているゲーム機からイタチを振り返った。

「それより父さん!今日はオレに付き合ってくれんだろ。この前の続きしよーぜ!」
「またゲームか?オレが得意じゃないのは前で分かっただろう…」

この頃のなまえが夢中になっているのは、忍術の勉強でも修行でもなく、ゲームと音楽。
特に技術が発展してバリエーションを増やしたゲームでの勝負や協力プレイを仲間と共に楽しんでいるらしい。
そういった類と無縁で過ごしてきたイタチは、天才肌と言われても苦手な部類に入る。
ぎこちなく困った顔をしても、なまえはイタチの手を引っ張って立たせた。

「父さんがゲーム下手くそなのは知ってるから良いよ」
「…なまえ。オレも自覚はしているが、そんなはっきりとは…」
「下手くそなのは下手くそで変わりないだろ!」
「……」

グイグイと引く力に負けるはずがないのだが、下手くそ!と連呼されて沈黙するイタチにグサリと突き刺さる何かが見えるのは名前だけだろう。
急に静かになった父にも構わず、好機とリビングの方へと引っ張っていく。
ゲーム機のコントローラーを差し出して、自身のコントローラーを掴んだ。

「上手いか下手かなんて、どうでも良いよ。楽しいかどうかじゃん」
「!」
「オレは父さんとゲームやんの楽しい。父さんは楽しくねぇ?」

差し出されたコントローラーを見下ろし、真顔だった表情を崩して手を伸ばす。
受け取った機械の感触はきっと今後も慣れる事は無いだろうが、それよりもずっと大事なものが積もる気がした。
首を傾げて答えを待っている息子へ向けた微笑みは根負けだった。

「…楽しいさ。やるか」
「やった!勝負だっ、父さん!」

拳を握って向けてきたなまえの笑顔を眩しそうにしつつ頷いてやる。
台所の方でやり取りを見ていた名前が何も言わずに皿洗いを再開した。

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