- ナノ -




こちらSS商社勤務


都内の一等地に本社を置く、現在上場にのる大手企業SS商社。
朝の出勤ラッシュで慌ただしくサラリーマンらが行き交う中、最寄駅から本社へ向けてヨロヨロ歩く。
SS商社に勤めて6年目、営業課の銀時は平日にも関わらず二日酔いで頭を抱えていた。

「ぐぁー…昨日飲み過ぎた、最悪だ…あそこで止めときゃよかったな、くそッ」

頭はガンガン、頬はヒリヒリで最悪な出勤日よりである。
酒で酔いつぶれてしまったのはまだ良いが何故頬がヒリヒリと痛むのか、それは見事な拳跡で分かる。

「月詠のヤツ思いっきりブッ叩きやがって…フツー拳でいくか!?」

例の如く、最近まで付き合っていた彼女に夜遊びがバレて派手に拳をぶつけられからの大喧嘩。
お互い浴びるように酒を飲んでいたせいでヒートアップしてしまった挙句、ドラマのような破局だった。

「気がつきゃ高杉はいねェし、俺を見捨てていきやがってマジ殺してやりてェ」

額に手を当てながら本社への続く手前の公園並木を歩く、よく社員がお昼休みに利用する公園だ。
本社のすぐ下に位置しておりベンチも多い為、休憩や昼食に利用される事が多い。
少し低めの塀と道を隔ててすぐに本社の敷地へ通じている為、近道にもなる大変便利な場所だ。
少しでも近い道を行こうと、公園内でも人気が少ない裏小道を珍しく利用しようと歩く銀時の上に影が差す。

「ん?…ってどわぁぁあ!?」
「うわぁあ!?あぶなッッ」

一瞬、鳥か何かが上を飛んだのかと思ったのが間違いだった。
予想外に大きい影は鳥どころの大きさではなく間違いなく人間大で、木から塀へ飛び上がろうとした影は見事に落ちてきた。
思わず上を見上げてしまった銀時の大声にびっくりしてしまったらしく、塀へ飛び移れなかったらしい。

「つッ痛ェ…!って空から人?…じゃねェ、おい大丈夫か…!?」
「いたたッ…あわわ、ごめんなさい!まさかココ通る人がいるなんて!そちらこそ大丈夫ですか!?」

思いっきり押し倒された格好のまま銀時は、顔を上げて額をさする人物に目を見開く。
きっちりと高そうなダークのパンツスーツに身を包んだ女の胸元で揺れる社員証は間違いなくSS商社のもの。

「お、おう…大丈夫なら良いけど…(おぉー朝から絶景だコリャ、苗字 名前チャンね)」
「良かった!じゃ、私は急いでるんで!!」

やる気のない目で返す銀時の目は胸元と社員証に注目されているのも気が付かず、キリッとした顔で返した名前。
ポカンとした顔をしてしまった銀時の上からどいて、すぐに鞄を抱えて助走をつける。

「え、マジですか」
「とりゃあぁぁ!!」

近くの木の太い幹に数歩で飛び乗ると、跳躍後、片手を塀の上について体重を乗せて見事に飛び越える。

「遅刻するぅぅぅ!!!」

と、塀の向こうで木霊して消えていく声が耳から離れず、ポーカーフェイスで有名な表情を崩したまま銀時はボーとしていた。

「何?え、ターザン?都心のターザンとか聞いたことねーよ。っていうか…」

パサリと胸元に残されたモノを半目で見つめて、髪の毛をガシガシかいてもう1度塀を見上げて立ち上がる。
その手には最後に握らされた(擦り傷の手当用であろう)ハンカチとイチゴ味の飴玉。

「無駄に気ィ使われるとか俺どんだけ酷い顔してんの?…でも、ドストライクだわ」

名前か、と噛みしめるように呟き、イチゴ味の飴玉を口に放り込んで歩き出す。
先ほどよりは朝が清々しく感じられていた。

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