- ナノ -




8 君と巡り来るために


「おい神楽、本当にあの男と組むつもりか」
「仕方ないでしょ、定春があの調子なんだから」

翌日、天気の良いかぶき町の通りを歩く先頭は定春にガウガウと戯れ襲われている銀時と資料を読み歩きしている名前。
そして少し後ろから続く神楽と未だに納得いかない新八。
新八が神楽に問いかければ、鼻で笑った神楽は「所詮アンタの語る万事屋なんてその程度ってコト?」と煽った。
対してピクリと釣り上がるは新八の眉だ。

「フン、挑発すれば昔のように俺のツッコミが拝めると思ったか?その手には乗らんぞ」
「誰も聞きたくないわよ、アンタの喧しいだけの中二ツッコミなんて」
「誰が中二…ッ!、とにかく俺がお前たちといるのはあくまで名前さんの頼みだからだ。貴様ともあの男とも一切馴れ合うつもりはない、それだけは覚えておけ」
「私だって同じだから安心しなさいな」

バチバチと火花を散らし、フン!と顔を逸らす2人の空気を砕いたのは、銀時を頭から咥え込んで振り下ろした定春で。
ウーウーと定春の口内から聞こえるのは銀時の悲鳴だろう、神楽は慌てて心配した。

「駄目よ定春!そんなバッチいもの食べたら白詛より怖い病気になるよ!股間が痒くなるよ!」

勿論、定春の身を。
ペッと銀時を吐き出した定春だったが、頭から血ダラダラな銀時の怒りが炸裂した。

「誰が性病だクソアマ!ってなに距離とってるの新八さん!?感染らないよッそもそも病気でもねーよ!」
「…ちょっと待っていろ。薬局に行ってくる」
「人を病原菌みたいな目で見んなァァ!だから感染らねェの、お前の知識は相変わらず中二のまんまか!」
「誰が中二ッ…!、おっと危ない危ない」

メガネを上げて咳払いでクールさを保とうとする新八だったが、明らかに動揺は隠し切れておらず。
呆れた目線を向ける神楽は、静かな名前へと視線を向けた。
言い合いが煩い中でも全く気にしていない名前は手元の資料に挟んだ手帳をずっと読み込んでいた。
それは神楽が名前に譲った銀時の手帳で。

「名前?他に何か?」
「…ん?ううん、何でもないよ神楽ちゃん。それより、言ってた橋ってアレかな」
「そう、あの橋の下よ。ほら、アンタたちも馬鹿やってないで急ぎなさいよ!」

意識を周囲に戻した名前が指し示した先には、通りの向こうにある大橋だ。
遠目からでも既に人だかりができている事が分かるあの場所が目的地。
正確には、新八と神楽が教えてくれた源外のいる所である。

この何も分からない世界での唯一の手掛かりが時間泥棒を作り上げた源外だから。
壊れてしまった時間泥棒を修理するにも行き着く事から、まず先にこの世界での源外を探すのを第一にした。
が。

「……」
「アレは?」

ようやく一歩を踏み出せると思った矢先。
まさに目の前に広がる光景に名前と銀時に影が差しつつ遠い目になる。
周囲の人だかりに混じりながら、境を作っている柵の向こう…斬首刑として引き出されたのが源外だった。

「あれが将軍の首をとろうとカラクリクーデターを起こして指名手配されていた平賀源外か…」
「ようやく処刑か、これで江戸も少しは平和になるだろうよ」

周囲の人々が口々に認めたくない現実を丁寧に教えてくれるから現実逃避できない。
名前は額に手をあてて痛む頭を何とか働かせようと頑張る中、銀時はガッテム状態で新八と神楽に叫ぶ。

「ぇぇえ!?聞いてねーよッ、一体どーいう事ォォ!?」
「どういう事も何もあのじーさん元々指名手配されてたでしょ。それがお縄にかけられて今日が処刑の日なわけよ」
「ジーザスッ、なにその奇跡!よりによって今日ォオ!?」

取り乱す銀時に対して冷静に語られるは、源外がとっ捕まった経緯。
銀時が姿を消して以来、呑んだくれる事が多くなり、ケンタの前のカーネルさんをバズーカー持たせたカーネルサンダーライガーに改造している所を見つかったと。

「何故にカーネルさん…」
「何その逮捕理由!マジで馬鹿なの?何やってんのじーさん!?待て、マジでどーすんだオイ、何とか助けられねーのか!?」
「俺たちが何も手を打ってないとでも?何度も面会に行った、しかしあのじーさんが何の反応もなくとり合わなかったんだ」

首を横に振って答える新八も悔しさが伺えるから、本当に手を尽くしたが為す術がなかったのだろう。
名前も眉を寄せつつ、ざっと処刑人や警備の人数、そして人だかりを見渡す。

(これだけの人と柵に警備の固さじゃ、私たちだけで立ち向かうにはリスクが高すぎる…)

せめてもっと人数がいれば強行突破も可能だったかもしれないと。
新八や銀時も同じ事を考えていたらしく、黙る新八とは違って銀時は神楽に問う。

「ならヅラは?アイツが率いてる攘夷志士たちはどうしてる?幕府も弱ってんだろ、今ならあの無能集団でも協力を仰げるくらいには…!」

一縷の望みにも思えたアイデアも、ん、と神楽が真剣な面持ちで示した先で打ち砕かれる。
「あれが過激派攘夷志士、桂 小太郎か」と、 周囲の人だかりが呟いていた。
曰く、処刑されれば江戸も平和になるだろうよ的なくだりまで全く一緒で。
再び沈黙してしまった名前は、ハハと乾いた引きつり笑いを漏らすしかない。

「ぇぇえ!?何やってんのォアイツ!さっきと全く同じ状況なんですけどォオ」
「ヅラさん、イメチェンしたんだ…はは」
「名前さん、しっかりして下さい。アレが本当の厨二です」
「誰も聞いてねーよ!!」
「あの通り、銀ちゃんがいなくなって以来すっかり変貌したヅラは過激派に鞍替え。ケンタの前のカーネルさんをカーネルサンダー晋助に改造してとっ捕まったの」
「「カーネルサンダー晋助って何!」」

耐えきれなくった名前と銀時の叫びがシンクロした。
その間も、斬首のために河原へ引き出されて源外の隣に座らされた桂は介錯人に何か言い残す事はあるかと聞かれる。
諦めきれない銀時が必死で手をあげつつ桂の名を呼び、名前も同じくする。
するとこちらに気がついた桂が口に筆を咥えて、紙にツラツラと書き連ねた。

“ヅラじゃない桂だ”

「すみません、コイツの首は俺に斬らせて下さい」

瞬間移動!?と、周囲もびっくりな自然さで介錯人が銀時に早変わり。
怒りマークを浮かべた銀時がチャキリと刀を降り構えるは割と本気に見えた。
当然、怒った警備の者たちに捕まえられて柵の外、つまり最初の位置に戻される。
名前に宥められながらも未だに怒りが収まらないらしい銀時の形相は凄かった。

「なら真選組は!?5年も経ってんだから、あんのゴリラやクソマヨラも少しは出世してんだろッ!?アイツらなら幕府に口聞いて…!」

ん、と新八が指し示した先に、名前がガンと柵に頭をぶつけて肩を落とした。
どよーんと人魂さえ見えそうな落ち込みっぷりに銀時が「!?」となると。
ガラガラと檻が押されて普通に桂の横に並べられた。
中にいるのは言うまでもなく。

「アレが捕まったゴリラか」
「ゴリラだわ…」
「ゴリラね」

周囲の人だかりの声よろしく、檻の中で無精髭のゴ…近藤がいた。

「い…ッいい加減にしろよォォあの馬鹿ども!何で警察なのにとっ捕まってんだ!?それとも江戸の流行って打首!?」
「近藤さん…ついに保健所に…」
「名前さん、アレは普通にしょっ引かれただけだ」
「あのゴリラは姉御に悪質なストーカー行為をエスカレートさせて、ケンタでカーネルさんに扮してた所をバズーカー持たされキセル咥えさせられ…火が引火して爆発騒ぎを起こしてとっ捕まったの」
「「カーネルさん落ち!?」」

今までになく絶妙にシンクロできるのは仕方ないかもしれないな名前と銀時だったが。
今並ばされている現状の如く、三馬鹿コラボレーションによるミラクルが実現した公開斬首3コンボである。
「アホなの?死ぬの!?」と怒って叫ぶ銀時に気がついた近藤が隣へも視線を移し、名前と目が合って反応する。
そのまま桂と同じように筆を咥えてツラツラと紙に書き連ねた。

“ムラムラします”

「すみません、コイツの一物は俺に斬らせて下さい」
「すみません、私もちょっと物申させて下さい」

ピキリと怒りマークを浮かべて刑場に瞬間移動するは、先ほどと同じく刀振り構える銀時と遺言用の筆を奪って笑顔のままバキリとへし折る名前だ。
当然、何だ君たちはな展開になり警護の役人に外へ放り出される。

「名前さんまで落ち着いて!とにかく他の手立てを考えれば…!」
「ッ、もうそんな時間は!」

ない、と柵の方へ戻された名前は打って変わって処刑の重苦しい雰囲気になった刑場を見やる。
空気改め、源外だけでなく桂や近藤まで処刑されそうになっているなんて。
何としても処刑だけはさせないとギリギリと柵を掴んで唇を噛んだ。

(最悪、私だけでも斬り込めば隙を作るくらいはッ)

この世界で生きる新八と神楽にはさせられない、2人に必要な銀時は以ての外。
脳内で覚悟を決めて腰元の刀へ手を伸ばそうとするタイミングと、ちょうど介錯人が刀を振り下ろそうとしたタイミングは一致していた。
ただその手を止めたのは、予想外の方向から放たれた1本の楊枝。

「ぐぅッ!?だ、誰だッ!!」

鋭い端は介錯人の手に突き刺さり、刀を地へ落とさせる。
役人たちが一気に警戒を強めた中、河原から水音を立てて現れたのは編笠を被った流浪の抜刀斎…ならぬ青年。

「感謝するぜィ万事屋。てめーらが気を引いてくれたおかげで容易に近づけた」

枝を口に咥えながら弧を描く口から発せられる声が誰であるのか。
呆然と目を見開いていた名前は5年経とうとすぐに分かる、自他共に認める相棒の。
「沖田くん…!?」と、身を乗り出して叫べば、役人たちの驚きに掻き消された。

「人斬り沖田だァァ!」
「!?」
「元真選組1番隊隊長にして、今や幕府に仇なす最強最悪の凶手、人斬り沖田だ!」

幕府に仇なす!?と、名前と銀時に衝撃雷が落ちて固まる羽目になる。
その間にも役人たちは沖田を取り囲み刀を向けて降伏しろと迫る。
チラリと名前を見ていた視線を戻した沖田は、四面楚歌な状況でも不敵に笑って手をヒラリと一振りする。

刹那、土手に背を向けていた役人たちの背後から場を揺るがす掛け声が木霊す。
動揺して振り返った彼らが目にしたのは、武装をした数十人の侍たちと真ん中で率いる将の2人。
黒の洋装を見に纏う眼光鋭い人物と白い身体に筋肉モリモリで金棒装備な化物。

「過激派攘夷党の誠組と桂一派だァ!!」

一気に怯えを含んだ役人たちの叫びに、チーンと思考回路が追いつけない名前と銀時たちの心の叫びも上乗せになった。

(攘夷党 誠組って何ィーッ!?)

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