ハニーボーイ


「琴子っち」

甘い声に名前を呼ばれて振り向くとそこには蜂蜜みたいな綺麗な髪の毛と整った顔をした私の恋人。今をときめくモデルであり、文武両道に長けた大学のバスケ部ムードメーカー担当の黄瀬涼太。
高校から一緒で委員会の席が隣で仲良くなって奇遇にも大学まで一緒。いつの間にか好きの意味が友達から特別に変わっていて、付き合い始めたはいいけど学部が違うから中々会えないしほぼ休みもすれ違い、我慢出来なくなったのか涼太が嬉々とした表情でいっそ同棲しよう!と教室に乗り込んできて、男子からは冷やかされ女子からは羨望の目で見られたのは記憶に新しい。

「なに?」

この生活も慣れたもんだよなぁと思いつつ、返事をしながらドレッシング取ってとでも言われるのかと思って調味料が並べてある机の真ん中に手を伸ばしかければ、すいっと男にしては綺麗な指が私の口元を撫ぜてそのままソースがついた自分の指を舌で舐め取…………へ、

「ん、口元ソースついてた」

「………あ、りがとう」

ソースがついていたであろうそこをおさえて熱い顔をそのままに、若干呆れた顔でお礼を言う。
恥ずかしいけれど、これもいつものこと。

そう、涼太のこのような奇行は今に始まったことじゃない。
怪我をすれば姫抱きで保健室、どこか行くときは手を繋ぎ、涼太はいつも車道側。委員会で脚立を使っての作業や少しでも危険だと涼太が思ったものは俺がやるから!と仕事をとられて、あまりの酷さに一時期喧嘩になったこともある。
今思えばその傾向は付き合う少し前からあったのかもしれないけど。
端から見たら馬鹿馬鹿しいくらいにバカップルみたいだ。まぁあんまり嫌ではない私も重症かもしれないけど。





『ねぇ』

『どうしたんスか?琴子っち』

一度、聞いてみたことがあった。
付き合い始めて間もない頃。私が無理をして高熱をだした時、涼太がお見舞いに来てくれた時。

『なんで涼太は私を甘やかすの?』

『……なんでも何も、甘やかしたいからっスかね?甘やかしたいくらい好きだからっスよ』

いつも疑問に思っていた。
涼太はどうして私に沢山の好きをくれるの?涼太はどうして私にこんなに優しいの?涼太は…

『私で、いいの?』

身体が弱ってるからこその漠然とした不安が押し寄せて、その日の授業を休んでまで看病してくれた涼太にたまらず言ってしまった。

今思えばあの時の私は相当情けない顔をしていたんだと思う。
ふわりと頭を撫でられたかと思えばもちろん、という言葉と満面の笑みが見えた。

『琴子っちがいいんスよ!俺は会った時から、甘えるのが下手な琴子っちの代わりに俺が沢山甘やかしてあげるって決めてたんスから』

だから、存分に甘えて?そう言って甘い笑みをたたえた涼太はモデルとかそういうのを抜きにしても凄く格好良くて、涼太の言葉に凄く想われているんだと実感してしまって、思わず布団を被って頷いたな、なんて。
私にもそんな時があった。


昔のことをぼーっとしながら思い出していたらそんな私を不思議そうに涼太がこちらを見てきて、その顔に少し笑ってしまった。

頬っぺたにソースついてる。

「……涼太」

「な、なな、琴子っち…!?」

さっきのお返しだと言わんばかりに名前を呼んで頬っぺにキスするように舐めとってやると面白いくらいに顔を赤くさせてわたわたと慌てる涼太。面白い。
まぁ、私からこんなことするなんて滅多にないし涼太が慌てる気持ちもわからなくもない。好きすらあんまり言わないし。

「ソース、ついてたよ」

「っ、やられた…」

頬杖をつきながらにやりと笑ってそう言ってやれば片手で顔を覆いながら不意討ちは卑怯っスと呟く。何のことだかわからないけど、そんな涼太を見てこっちまでむず痒くなってくる。

ああ、私は君との生活に慣れたんじゃなくて、甘いこの時間に溺れているだけだと気付くのは大学を卒業してから涼太が誕生日を迎える少し先のこと。





あまいあまい、
君はハニーボーイ

(ね、ね!琴子っち!もっかい…)
(しないから)





…………………………
黄瀬君お誕生日おめでとう。超おめでとう。
大学卒業して自分が誕生日迎えたらプロポーズというか婚約するつもりの黄瀬君とか。森山先輩にアドバイス貰うつもりが死ねって言われたり笠松先輩に相談するつもりが無意識でノロけてシバかれればいい。ごめん黄瀬君。
いつも長編で報われない君に少しでも愛の手を


 

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