君の見つけかた


「…琴子」

日が大分暮れて周りが静かになった頃、そろそろ明かりが欲しいななんて思って次のページを捲れば後ろから声をかけられる。この声は、

「テツ君、部活お疲れ様」

振り向けばテツ君が図書室の二階の階段を上がって後ろに来ていた。ほんとは上がってくる足音で気付いてたんだけどね。伊達に10年以上一緒に居ませんって。
下手をしたら家族と同じくらい一緒に時を過ごした小さな幼なじみだった彼は、あの頃から随分伸びた身長で、足で隣までスタスタ歩いてくると小さくため息を吐いた。

「また、こんな人気のない所で読書してたんですか?危ないって何回も言ったのに」
「逆だよ、人気がないから落ち着くんじゃない」

私はテツ君みたく歩きながら本を読むとか器用なこと出来ないし。笑いながらそう言えば少し困ったような顔で ぽり、と頬を掻くテツ君。
みんなはテツ君が無表情で分かりづらいって言うけど、テツ君はこんなにもわかりやすい。自分にも周りにも嘘が吐けないくらい真っ直ぐで正直だ。それ故に危なっかしかったりするから目も離せないんだけど。
それは小さい頃から同じだった。可愛らしくも曲がったことが許せないテツ君はクラスに一人は居るだろういじめっ子に1人で立ち向かっていた。まぁ、力では敵わなくて、私が目を離した時には既にやられてしまったりしていたんだけれど。テツ君のガラス玉みたいな目に涙が溜まってたのを知らないフリして手引いて帰ったっけ。
テツ君は負けず嫌いだから。
私に泣いてるところを見られるとムキになる。そんなところも含めて好きなのに。

ちらりとテツ君を見れば少し目線を下げて何か考えてるみたいだ。伏せられた睫毛に夕日の光がきらきらと反射している。
…やっぱり睫毛長い。肌も白いし髪の毛の薄い水色が夕日の暖色を含んでとても綺麗だ。でも、あれ。やっぱり顔の線とか、丸みはなくなってるんだな。背もそんなに大きくなくて周りの青峰君とかと比べたら華奢なテツ君だけど、やっぱり男の子なんだなあ。
横顔を眺めていると、伏せられていた睫毛が上がりテツ君と目があう。どきり、と心臓が小さく跳ねた気がした。

「…やっぱりマネージャーやりませんか?琴子を一人にしておくのは不安なんです」

「え、えぇ?信用ないなー。それにマネージャーはさっちゃんがいるじゃない」

「ですが…」

「だいじょーぶ。それに私はテツ君見ながら本読むの好きなんだから」

ほら、ここ体育館の中と水道見えるんだよ?穴場でしょ
窓の外を指させば丁度、体育館の片付けをしているだろう人と水道が見えた。
やっと見つけたんだからと少し得意気にふふふと笑えば目を軽く見開いて驚くテツ君。あ、ちょっとレアかも。
テツ君は人を観察するのに長けてるから、悪戯しようとしてもいつも見破られちゃうし、私がテツ君の足音でわかるようにテツ君も私の気配ですぐ気付いちゃうから後ろから驚かすことも出来ない。
だからこそ驚いた顔って貴重なんだよね。

「………………琴子は、最初の一度しか練習を見に来てくれたことがなかったので、てっきり興味がないのかと思ってました」

「そんなまさか。ちょっと人が多くてね、見辛かったから…」

そんなつもりはなかったんだけど。
勘違いさせてしまったら申し訳ない。
ただ本当に、あんまり人が多すぎるところは好きじゃないんだよねぇ…

「琴子は昔から人混み苦手でしたもんね。でも、よかったです…」

「ん?なにが?」

「僕の好きなものは琴子にも好きでいて欲しいですから」

真っ直ぐにこちらを見つめてくる目が柔らかく細められる。
心臓がうるさい。

いやいやいや何を深読みしてるんだ私は。
テツ君のことだからそんなのただの友愛とか家族愛的な意味に決まってるのに。ええい静まれ心臓。勘違いするな。

…そういった意味で言ってくれていたらいいのに。
あり得ないとは思っていても願ってしまう自分に心の中で苦笑をもらす。

「あ、はは。駄目だよーそんなこと言っちゃ…勘違いしちゃうよ?」

なんて言ってみたり。
自虐趣味なんてないけどたまにこんなこと言わなきゃやってられないこともあるよね。
だって、どうせ返ってくるのは…

「してください」

そうそう、してください……………………って、

「…え?」

「勘違い、してください。琴子には僕の好きなものを好きで居てほしい。僕の側に居てもらいたい
…そう思うのは、我が儘ですか?」

呆然とする私は、可愛らしく首を傾げ「僕のこと、好きでしょう?もちろん、恋愛的な意味で」と顔を覗き込んでくる幼なじみに赤い顔をもっと赤くさせながらこくこくと頷くしかなかった。





君の見つけかた





…………………………
黒子君かっこいいよねって話しになる予定だったんですけどね。


 

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