君のことは私が一番解ってるはずなのに


私の1日は、幼なじみに抱きつくことから始まる。

「はーじめちゃん!」
「う、わぁ…!」
「おはよう!」
「……琴子、あなたは何度いきなり抱きつくなと言ったらわかるんですか」
「何度かな?」

背後から忍び寄って抱きつけば、少し頬を染めて驚き、それが私だとわかれば呆れたようにジト目でこっちを見るはじめちゃん。相変わらず可愛い反応してくれる。

からかうようにんふふーと笑いながら首を傾げると諦めたような呆れ果てたような顔でため息を吐かれた。
あ、酷いなあ

「それが地元から後を追ってきた可愛い幼なじみへの態度なの?」
「普段の言動も可愛らしいといいんですけどね」

いじらしい可愛らしいとは思わないのかなもう!
いつものように憎まれ口を叩くはじめちゃんは勝ったかのようにふっと笑って歩き出す。
ここまでは予想通り。はじめちゃんもまだまだね。
今日の私は一味違うのに。

「いいのかなーそんなこと言っちゃって」
「……どういう意味です?」

口元を歪ませて私が横に並ぶと怪訝な顔をするはじめちゃん。おー警戒してる警戒してる。
少し猫みたいだなと思いながらブレザーの内ポケットから一枚の写真を取り出す。
その瞬間、はじめちゃんの顔が強張った。

「この間淳君とはじめちゃんの小さい頃のこと話しててね、何だったら写真を、と思って。懐かしいねぇ、はじめちゃん?」
「そ、それは…!」
「そ!はじめちゃんがお姉達に女の子の格好させられて泣いちゃった時のやつ!いやぁー懐かしいなーかわいーなー」
「こだなものどこで!」
「はじめちゃん。方言」

一枚の紙にはフリフリの可愛い格好をした一見女の子のようなはじめちゃんが、えぐえぐと泣きべそをかいてる横で少しお上品な男の子みたいな格好をした幼き私がはじめちゃんを慰めている様子が切り取られている。
にたりと笑って写真をぴらぴらと揺らしながら明らかに動揺するはじめちゃんに、更に追い討ちをかけると素が出た。
そこを指摘すればはっとして顔を赤くするはじめちゃん。田舎とかまだ気にしてるのか。はじめちゃんの方言可愛いのに。

「………」
「? はじめちゃ、」
「…………見せるんですか?」
「うん?」
「木更津に、見せるんですか?」
「え、と…?」

下を向いてしまったはじめちゃんを呼ぼうとすれば真面目な目とぶつかり少し焦る。え?なに、はじめちゃんのことならはじめちゃんママやはじめちゃんパパよりも、はじめちゃんのお姉達よりも解る自信があるのに今ははじめちゃんが何を考えてるのか、何を言いたいのか全く解らない。
結論から言うと、この写真は見せるつもりはない。淳君には最初からはじめちゃんの卒園式の時のものを見せるつもりだったから。

だって、これは私の特権だもの。

小学生の頃から人気はあったけど、追いかけてこっちに来てみたらもう比じゃないくらいはじめちゃんを好きな子が沢山居て、はじめちゃんも優しい部分とか神経質なとことかはじめちゃんだけどはじめちゃんじゃない、みたいな。
私の知らないはじめちゃんも当然のように、まるで前からそうだったようにそこには居て、なんだか私は1人で置いていかれたような気がしてた。
昔は女の子みたいに可愛くて、泣き虫で、方言を使っている可愛いはじめちゃんを知ってるのは、そんな私の、唯一の特権だもの。

「…見せないでください」
「はじめ、ちゃん…?」
「僕のシナリオにない、素の部分は琴子だけが知っていればいい。琴子以外の人に僕の素を知られたくありませんし、僕しか知らない琴子を他人に見せてあげる気もありません」

だからこれは没収です
そう言ってすっと私の手から写真を抜き取るはじめちゃんは今までに見たことがないくらい不敵で格好良くて素敵だった。




君のことは私が一番知ってるはずなのに

((いつの間にそんな顔出来るようになったの?))
((はじめちゃんのそんな顔、知らない))


…………………………
どうも、観月さんをはじめちゃんと呼びたいけど恐れ多くて呼べない方、支子です。はじめちゃんって名前可愛いですよね。
最後になりましたが観月さんお誕生日おめでとうございます!


 

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