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取り敢えずスコーンは家庭用生ゴミ処理機に突っ込み、アルと二人でまったりブレイクタイムを楽しんだ。

酷い?
あれは食べ物じゃない。あれこそ兵器と呼ぶに相応しい。
たまにアーサーの料理を食べたことのないらしい人が「精一杯作ったものを〜」とか何とか言っているのを見るけれど、アーサーの場合はそんな綺麗事は通用しない。
お世辞にも「美味しかったです」なんて言おうものなら調子に乗って次から大量に作ってくる。悪夢どころではない。恐怖だ。菊さんがいい例だ。律儀にも遠回しに感想なんていうものだから直球にいらない、まずいと言われてきたアーサーがそれはそれは喜んでしまって何かと理由をつけて日本へ出かけていった。もちろん、お土産に昨晩から下準備をしたスコーンを大量に持って。
…あれには流石に同情したわ。アルならともかく、繊細な菊さんだ。耐えられなくなって菊さんが鎖国しかけたところで初めて自分のスコーンが嫌だったのだと気づいたけれど、今度はアーサーが引きこもって大変だった。私が。
愛情は最高の調味料なんてまやかしだし、空腹はきっと更に追い討ちをかけ止めさえも刺す。
悪気はないのはわかる。全て善意なのも。でもものには限度と許容範囲というものがある。
本当に誰かアーサーに料理を教えてあげて欲しいくらいだわ。彼の為にも。私の為にも。

「…………アリス、まだ砂糖とミルク入れるのかい?」
「え?ええ、駄目?」
「ダメじゃないけど…」

可笑しいかしら。
苦笑するアルに首を傾げていれば「相変わらずとんだ甘党なんだね」と笑われた。別にそんなんじゃないのだけれど…
随分まろやかな色になったそれと何も入れないまま飲んでいるアルのマグの中の色を見比べれば、なるほど確かに別物のような違いだわ。そう言えば、バイルシュミッド兄弟やバッシュとかにも何回か顔をしかめられた事がある。
その時は人のこと見て嫌そうな顔するなんて失礼なと思ったけれど、でもこの甘さが自分には丁度良いのだ。

「あっ!そう言えば今日泊まっていくんだろう?」

カフェオレよりも乳白色なそれに口をつければ思い出したようにあっと声をあげるアル。
もちろんそのつもりだ。と言うか今から移動するには陽が暮れすぎた。
窓の外に見える少し傾いた陽をちらりと見やればマグを口元に寄せたままに口を開く。

「…どうしようかしらね?それも悪くないれども、まぁどうしてもと言うのなら」
「DDDDD!そう言うと思ったんだぞ!でもよかった、アリスと見たかったDVDがあるんだ!」

私と?何だろう
最近はとくにこれと言って観たいものはなかったはずだけど。
その疑問は、全てやることを済ませ、DVD鑑賞を始めてすぐにわかった。

「うぎゃあああああ!!!!今、いまっ!!」
「……」
「ひぃっ!わあああああ!!!」

そう、アルが見たいと言っていたのはホラーだった。
ああ、普通に考えてみればそうじゃないか。小さい頃もよくアルとマシューと一緒にくそ眉毛の野郎にホラーを見せられたことがあった。
悲鳴をあげながら身を寄せて見るマシューやアルと違い、私は確かにスプラッタや唐突なものには驚きこそすれ、普段からそう言った不可思議な存在を視ているからか怖いとは思わなかった。

多分、それで私と一緒に観たい、なんだろう。

なんだ、と少し残念に思うのが半分。でもそれもどこか憎めない相変わらずな弟には負けてしまう。
そんな事を思っている最中にもアルの悲鳴がひっきりなしに聞こえる。ちょうど今が山場らしい。大鎌を振り回す仮面の男が次々と人間を切り裂いていき、今は主人公と思われる女とリアル鬼ごっこをしている。
こういうのはあまり得意ではないのに、それでもまたと繰り返すのは怖いもの見たさと言うやつだろうか。それとも目に見える恐怖に叫ぶことでストレスを発散しているのか。
私はアルの叫び声の方がびっくりするけれど。

ちらりと横を見上げれば大きい体躯を縮こまらせて私の服をぎゅっと握りしめびくびくしながらも液晶に釘付けのアル。
そんなアルに仕方ないと思いつつも口角が上がるのを自覚すると私も随分アルには甘いのだろう。








 




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