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「やぁ、お待たせ…ってわああああ!」
「…そんなに慌てなくてもいいわ」

がちゃりとドアを開けトレイを持って現れたアルは私の視線が例のオモチャの兵隊に注がれているのを見て慌てて戸棚の中に閉まってしまった。
加えて「これは違うんだぞ!」とか今更意味のわからない言い訳をしている。アーサーも私もだけれど、アルも素直そうに見えて素直じゃない。
まったく、誰に似てしまったのかしら。

「待ちくたびれたわ、ってこれ、コーヒーと…」
「スコーンだぞ」
「スコーンに謝りなさい」

別にそんなに待たされたわけでもないけれど先に口をつく言葉に私も大概だわと思う。
幼い頃はもっと素直だったはずなんだけれど仕方がない、何てったって育ての親が悪かった。自覚してるだけまだいいと思ってほしい。

テーブルに置かれたトレイの上には、コーヒーが入ったマグカップが2つとお皿に盛られた異臭を放っているコーヒーに負けないくらい黒い……えーと何これをのせたアルは爽やかに食べていいよなんて恐ろしいことを言った。
私に死ねと?可愛い弟に殺されるのは中々に趣味の悪い悪夢だと思う。

「これアルが作ったんじゃ…」
「失礼だな!俺は食べれるものしか作らないんだぞ!」
「よね………じゃあ、これは」

まぁアルのアイスクリームだとかケーキも大分身体には悪そうだけど普通に美味しかったりするし。
じゃあ一体誰がなんて、そんなことはわかりきっているけれど口に出さずにはいられない。答えが頭に浮かび、現実逃避をしたくて考える振りもしたみたけれど、それでも最悪な結論に至った私はくるりと身体を反転させて玄関へ向かおうとした。


「行かせないんだぞ」

アルなんて今この瞬間だけだいきらいだ。

「アル。アルのことは大好きよ?でも後生だから離してお願い切実に」
「俺だってまだ死にたくないんだぞ!て言うかこれはさっきアーサーがアリスに…」
「アアアアーサーがここへ来たの!?」
「君が来るちょっと前に帰ったんだぞ」
「…………ちなみに何の用だった?」
「アリスが来てないかって」

なんて恐ろしい死刑宣告だろう。アーサーが私に?ふざけるなそれこそ大きなお世話だ。
しかも私の行動パターンは大体お見通しらしい。


でも、甘いわね。
絶望的な表情から一変、ふっと口元に笑みを浮かべる私を見てアルが首を傾げる。
確かに自分で言うのも何だけど昔の可愛らしい私だったら間違いなくアルのところへ行っていた。それはもう直行でしょう。
でもそれは一昔前の私なら、の話しだ。もうアーサールーツで知り合った一部の人たちとしか交流のなかったあの狭すぎる世界で生きていた私とは違う。

私の、圧倒的勝利だわ!






 




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