NO.TIE.TLE | ナノ


「どんだけ湧いて来んだコイツら。」


360度見渡せば敵、敵、敵。


倒しても倒しても溢れ返ってくるアクマに断罪者(ジャッジメント)を撃ちながらクロスは不敵な笑みを浮かべた。


「流石に多いな。目的地に近付くにつれ、増してやがる。」


「やはり今回の"最後の瞬間(トキ)"はあのデブの仕業だったか・・。」


二人は一旦背中合わせになりアクマとの距離を置くと、一斉に地面を蹴り空高く舞い上がった。


「で、お前どうするんだ。」


「・・・・。」


「あんだけ派手に事が始まれば流石の餓鬼共も気付いただろ。態々俺の所まで逃げて来た意味が無くなるぞ。」


「解かってる・・そんな事。」


神田達もあの光の正体を突き止めようと、あの場所へ向かっている。


目的地に近付く程に鮮明に予知が視え、彼等との距離が次第に縮まって行くのが手に取る様に解かる。


もし、遭遇したその時は・・


ニカがアクマの動きを止め、クロスが断罪者でそれ等のボディを的確に貫く。


発砲音と共にギシギシと組織が崩れて行く音・・刹那、沢山の赤が飛び散り、ガシャリと重たい物が落ちる音がした。


そして、アクマを一掃し終えるのと同時に空中から地面に着地する二人。


「その時は、俺が話しをつけるよ。」





心理の目覚めにより、地球には様々な奇怪現象が起きていた。


黒く、そして分厚い雲に覆われた空。


葉を全て落とし、裸になった木々。


乾き、罅割れ、大きく裂けた大地。


崩れるかの如く地響きと共に動く断層。


この世に存在する万物には生があり、それ等は心理の目覚めにより命を閉ざされてしまった。


誰しもが望んだ美しい世界は、もう地球の何処にも存在などしていなかった。


完全に崩れてしまった均衡。


今、バランスが取れなくなってしまった世界は自らの手で滅亡への道へと進んで行こうとしているのだった。


そう、


7年前と、同じ。








第二十五夜 最後の瞬間 first





「なぁー・・、ニカまだ?」


アネモネの花畑に置かれた椅子に座り、その足を前後に揺らしてつまらない、と言わんばかりの顔をする心理のレプリカ。


心理のレプリカは着慣れない正装を身に纏い、不服そうに、同じく椅子に座り縫い物をする千年伯爵に訊ねた。


「沢山刺客を送りつけておきましたからネ、そう簡単にはこちらに来れないでショウ」


「刺客ねぇ・・?」


「ハイvどうしてもこの計画を成功させたいノデ」


「計画、ねぇ・・?」


ニヤ、と口角を吊り上げる。


伯爵が殺気を感じ、常人では見えない、瞬間移動並みの早さで椅子から退く。


そして、跡形も無く粉々に破壊された、自分が座っていた椅子に目を向け、


「・・裏切りましたネ?心理のレプリカv」


憎悪に満ち溢れた眼鏡の奥に鋭く光る目で心理のレプリカを捉えた。


心理のレプリカはクックック、と喉を鳴らし、ネクタイを緩める。

・・
「勝手に僕をこの世に蘇らせてくれたのはアンタには感謝しているよ・・。でもね、僕が『仲間になる』と、一度でも言ったかい?そこら辺のガラクタ達と一緒にしないで欲しいねぇ・・。」


死者の魂を態々天から引き摺り下ろして弄ぶような奴の下になど付きたくないのだ。


実に詰まらないし、滑稽だ。


「それに・・解かっているよね?僕はいつでも君の事を殺せる・・でも君は僕の事を殺せない。僕を殺せるのは、『神様のレプリカ』だけだからだ。」


元々この世界に姿を現さない僕は、この世界に在るモノには左右されない。


唯一左右されるモノは、様々な空間を行き来出きる、『神様のレプリカ』である"ニカ"だけだ。


「死者の魂がどうとか、世界がどうとか、今となってはどうだっていいんだ。僕の目的は只一つ、ニカに逢いたい、それだけだ。」


―・・彼女は誰よりも優しくて、感情に敏感で、それでいて、冷たい。


死者の魂を弄ぶよりも、最も人間らしい、大好きな彼女をこの手で甚振り苦しみ悶え死ぬ姿を見る方が、僕からしてみれば想像しただけで快感を感じ、仕方がない。





嗚呼・・ニカ、早くおいで。そして、僕に教えてくれよ。





愛する人を手に掛ける快感を。






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