「神田ー!」 「あ?」 後ろから呼ばれ振り向くと、包装とリボンが施された箱を両手に抱えて来るリナの姿が在った。 「私、任務から今帰ってきたんだけど、直ぐにまた出なきゃいけないのよ。だから、これ・・神田が変わりにニカに渡しておいてくれない?」 「チッ・・馬鹿兎と言いお前と言い・・どんだけ土産買ってくるんだよ。」 「あら、それを言うなら神田だって同じじゃないの。見ちゃったんだからこの前、花瓶にアネモネ生けてあの部屋に飾ってたでしょう?それも真っ赤な!花言葉は『君を愛す』よねえ?」 ニヤリ、と微笑まれる。 糞っ俺としたことがまさか見られていたとは・・。 「・・・・・・はぁ、渡しておけばいいんだろ。」 溜息を吐いて、項垂れる。 あの部屋にもう物を置く場所なんざないと言うのに、またコムイに頼んで壁ぶち抜いて貰うか。 「ありがとう、神田!じゃあ私もう行くわね、探索部隊さん達を待たせてあるから。」 「あぁ。」 「それと、ラビに宜しく!」 「・・・・。」 チッ、今度は一体何を買ってきたんだアイツは・・。 大きさの割りに軽い箱。 少し揺らしてみると微かにカラカラと言う音が聞こえたが、中身はわからない。 これを開くのはあと何年後か解からない為、食べ物ではない事は確かだが。 「よ!ユウちゃ〜ん!何?もしかして女の子からプレゼント貰っちゃったの?やるぅ!」 「黙れ馬鹿兎寄るな!」 食堂沿いの廊下を通っていると、調度食事を終えたのか横から出てきたラビに肩を組まれた。 肘を相手の顔面にめり込ませどうにか回避する。 ラビは崩れた体勢を整えると、手に持つ箱を横目で見て微笑んだ。 「それ、ニカに、だろ?」 「・・ああ。」 「包装からすっと、リナリーさね。俺この前、ジェリーがニカに置いてった焼き鮭食っちった。」 「祟られろ。」 「はは、まじで祟られたかも。その日の夜川で鮭釣ってたら熊に襲われた夢みたさ。ニカの能力恐るべし。」 珍しくたわいも無い会話をして、鉄で出来た重い扉の鍵を開け、中に入った。 この部屋独特の冷たい空気に包まれながら、綺麗に包装され、詰まれた箱を避けて歩く。 やっとの思いで目的の場所の前に辿りつき、一番小さい箱の山の上に先程リナから貰った物を置く。 「・・・・あれから・・もう一年半か。」 「ああ。」 「なあ、気付いた?最後の瞬間の後位いから、俺達大怪我一回もしてねぇの。」 「・・ああ。」 「それってやっぱり、ニカのお陰かなとか思ったりしちゃって。」 「そうだな。」 「おろ?珍しい。ユウも同じ事思ってたんさね。そういうの、絶対信じなさそうなのに。」 「コイツならやりかねないだろ。」 「まあ・・・・そうさね。俺達はずっとニカに守られてる。」 硝子のケースを見上げる。 薄暗い部屋の中で、照明に照らされた羊水が反射して水色の光を放ち、眩しくて思わず目を細める。 出逢った頃から変わらないその姿。 変わったのは、髪の毛が伸びた位だろう。 ふいに、自分がアネモネを生けた花瓶へと目をやる。 ぎゅうぎゅうに生けたはずのアネモネが、枯れて萎れた訳ではなく、何故か減っていた。 誰かが数輪持って行ったのか、と溜息を吐きながらニカに視線を戻す。 先程よりも幸せそうな表情をした彼女の両手の中には、アネモネの花が優しく咲いていた。 何十年でも、何百年でも構わない。 俺は、お前の目覚めを待っている。 →第二十五夜に続く ×
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