NO.TIE.TLE | ナノ


「神田!無事か!?」


「ああ。」


六幻を鞘に収める。


この場に現れたアクマはかなりの数で、毒を持つ蒸気が視界を白くする。


「コムイと連絡は取ったのか?」


「ああ。任務をアクマの破壊に変更、後、速やかに教団に帰還するように、と。」


「・・そうか。」


ミツキに目をやる。


あの後彼女は泣いたのか、腫れた目を地面に落とし、馬鹿兎とリナに腰を支えられていた。


何か、我慢していた物がプツリ、と切れ、気がつけば彼女の胸倉を掴んでいた。


「ユウ、やめるさ!」


「神田・・っ」


すかさず止めに入る馬鹿兎とリナ。


ミツキは胸倉を掴まれても尚、動揺せずに、寧ろ先程と変わらず地面に視線を落としたままだった。


その態度が更に己の腹の底から表現の出来ない何かがふつふつと込み上げてくる。


「馬鹿かお前は!」


「神田やめて!」


「今一番辛いのはニカだろうが!」


ニカからどれだけのモノを貰った?


ニカにどれだけどモノを教わった?


「今ここに下しか向いてる奴はいらねぇんだよ!グズグズしてんなら教団に還れ!!」


ミツキの胸倉を掴んだ手を乱暴に離す。


すると、突然彼女は伏せていた瞳で俺を捉え、両手で団服の襟を掴み己に引き寄せた。


「貴方の所為でしょう!!」


「あぁ!?」


「貴方がちゃんとニカを捕まえてればこんな事にはならなかった!!」


自分でも充分承知している事を言われ、ずしり、と重たい鉛のようなものが己に圧し掛かる。


つい、再び彼女の胸倉を掴み直した。


ぐ、と持ち上げられた事により軽く咳を漏らすものの、彼女は声を荒げて言葉を続けた。


「私じゃニカを救えなかった!!だから彼女の全てを貴方に託した!!それなのに・・・・っ、!」


ミツキがそこで言葉を区切る。


俺を睨みつけていたはずの彼女の瞳が明後日の方向を向いている事に気が付き、反射的に振り向いた。


果てしなく広がる森の中から、一筋の光が曇に覆われた空に向かって伸びている。


「何さ、あれ!」


「わからない・・光の柱?」


「つーか待て!何かこっちに来てねぇか!?」


それは次第に膨らんで行き、瞬きをしている間にもドーム状へ形を変え、森を包み込んで行った。


光が近くなるにつれ風が強く吹き荒れる。


根こそぎ抜かれた木を避けながらもその光から目を奪えず、範囲が広すぎて逃げることすら出来なかった為、俺達はそれに飲み込まれた。





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耳鳴りが頭痛と吐き気を誘う。


俺はこの感覚を嘗て経験した事がある。


俺の肩を抱くクロスも何かを感じたかのように伏せていた目を上げた。


異常な程に外は静かで、脳天を突き上げるような耳鳴りが酷さを増す。


ざわ、ざわ、と、己の身体に血液が流れているのを感じる。


悪寒と共に全身の毛が逆立ったような錯覚に陥り、こめかみから冷や汗が流れて行くのが解かった。


「伏せろ!アレン!!」


ベッドから飛び降りて、何も感じていないアレンに能力を使い伏せさせる。


刹那、ドバァ、と、爆風と共に身体が白い光に包み込まれた。


まず、窓硝子が全て綺麗に消し飛んだ。


そして、家具なんかはその白い光に触れた瞬間吹き飛ばされて、家はバキバキと音を立てて次第に崩れて行き、仕舞いには、何も無くなった。





−オハヨウ−





心の奥底からふつふつと憎しみが手足の先まで染み渡る。


嘗て感じたことの無い、深い、憎しみだ。


自分が包まれた黒いボール状の何かを両手で引き千切れば7年前に最後に観たアネモネの花が自分の目覚めを歓迎するかのように揺れていた。


空は曇っている。


きっと今、日の光が差していても不愉快だっただろうから、それが調度良かった。


ヌルリ、と身体に纏わり付く黒い粘着質の何かを剥ぎ取って、地に足を着ける。


久々に足の裏から脳を刺激されその感覚に酔いしれた。


手も、足も、目も、耳も・・この身体の全てが僕のものだと思うと優越感を感じる。


「ふ・・ははっ、ははははははは!!」


目の前で口角を吊り上げているシルクハットを被った何かが嬉しそうに僕に問いかけた。





「おはようございマスv7年ぶりのここの空気はどうデスカ?『心理のレプリカ』v」





嗚呼、またキミに会えるなんて・・僕はなんて幸せ者なんだろうね?






ニカ





→第二十四夜に続く



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